ヴォルデモートは、ネビルの幼年ようねん時代にも、ハリーの場合と同じくらい暗い影かげを落としていた。しかし、ハリーの持つ運命がもう少しでネビルのものになるところだったということを、ネビルはまったく知らない。予言は二人のどちらにも当てはまる可能性があった。それなのに、ヴォルデモートは、なぜなのか計はかり知れない理由で、ハリーこそ予言が示し唆さした者だと考えた。
ヴォルデモートがネビルを選んでいれば、いまハリーの向かい側に座っているネビルが、稲いな妻形ずまがたの傷と予言の重みを持つ者になっていただろうに……いや、そうだろうか? ネビルの母親は、リリーがハリーのために死んだように、ネビルを救うために死んだだろうか? きっとそうしただろう……でもネビルの母親が、息子とヴォルデモートとの間に割って入ることができなかったとしたら? その場合には「選ばれし者」は存在さえしなかったのではないだろうか? ネビルがいま座っている席は空っぽだったろうし、傷きず痕あとのないハリーが自分の母親にさよならのキスをしていたのではないだろうか? ロンの母親にではなく……。
「ハリー、大丈夫? なんだか変だよ」ネビルが言った。
ハリーはハッとした。
「ごめん――僕――」
「ラックスパートにやられた?」
ルーナが巨大な極ごく彩さい色しきのメガネの奥から、気の毒そうにハリーを覗のぞき見た。
「僕――えっ?」
「ラックスパート……目に見えないんだ。耳にふわふわ入っていって、頭をボーっとさせるやつ」ルーナが言った。
「このへんを一匹飛んでるような気がしたんだ」
ルーナは見えない巨大な蛾がを叩たたき落とすかのように、両手でパシッパシッと空くうを叩いた。ハリーとネビルは顔を見合わせ、慌あわててクィディッチの話を始めた。
車窓しゃそうから見る外の天気は、この夏ずっとそうだったように、まだらだった。汽車は、ひんやりとする霧きりの中を通ったかと思えば、次は明るい陽ひの光が淡く射さしているところを走った。太陽がほとんど真上に見え、何度目かの、束つかの間まの光が射し込んできたとき、ロンとハーマイオニーがやっとコンパートメントにやって来た。
「ランチのカート、早く来てくれないかなあ。腹ペコだ」
ハリーの隣となりの席にドサリと座ったロンが、胃袋のあたりをさすりながら待ち遠しそうに言った。
「やあ、ネビル、ルーナ。ところでさ」ロンはハリーに向かって言った。
「マルフォイが監かん督とく生せいの仕事をしていないんだ。ほかのスリザリン生と一いっ緒しょに、コンパートメントに座ってるだけ。通り過ぎるときにあいつが見えた」