ハリーは気を引かれて座り直した。先学年はずっと、監督生としての権力を嬉き々きとして濫用らんようしていたのに、力を見せつけるチャンスを逃すなんてマルフォイらしくない。
「君を見たとき、あいつ何をした?」
「いつものとおりのこれさ」
ロンは事もなげにそう言って、下品な手の格好かっこうをやって見せた。
「だけど、あいつらしくないよな? まあ――こっちのほうは、あいつらしいけど――」
ロンはもう一度手まねしてみせた。
「でも、なんで一年生をいじめに来ないんだ?」
「さあ」
ハリーはそう言いながら、忙しく考えをめぐらしていた。マルフォイには、下級生いじめより大切なことがあるのだ、とは考えられないだろうか?
「たぶん、『尋じん問もん官かん親しん衛えい隊たい』のほうがお気に召めしてたのよ」ハーマイオニーが言った。
「監督かんとく生せいなんて、それに比べるとちょっと迫はく力りょくに欠けるように思えるんじゃないかしら」
「そうじゃないと思う」ハリーが言った。
「たぶん、あいつは――」
持論じろんを述べないうちに、コンパートメントのドアがまた開いて、三年生の女子が息を切らしながら入ってきた。
「わたし、これを届けるように言われて来ました。ネビル・ロングボトムとハリー・ポ、ポッターに」
ハリーと目が合うと、女の子はまっ赤になって言葉がつっかえながら、紫のリボンで結ばれた羊よう皮ひ紙しの巻紙まきがみを二本差し出した。ハリーもネビルもわけがわからずに、それぞれに宛あてられた巻紙を受け取った。女の子は転ぶようにコンパートメントを出ていった。
「何だい、それ?」
ハリーが巻紙を解いていると、ロンが聞いた。
「招しょう待たい状じょうだ」ハリーが答えた。
ハリー
コンパートメントCでのランチに参加してもらえれば大変うれしい。
敬具けいぐ
H・E・F スラグホーン教きょう授じゅ
「スラグホーン教授って、誰だれ?」
ネビルは、自分宛あての招待状に当惑とうわくしている様子だ。
「新しい先生だよ」ハリーが言った。「うーん、たぶん、行かなきゃならないだろうな?」
「だけど、どうして僕に来てほしいの?」
ネビルは、まるで罰則ばっそくが待ち構かまえているかのように恐こわ々ごわ聞いた。
「わからないな」
ハリーはそう言ったが、実は、まったくわからないわけではなかった。ただ、直感が正しいかどうかの証しょう拠こが何もない。
「そうだ」ハリーは急に閃ひらめいた。
「『透とう明めいマント』を着ていこう。そうすれば、途中でマルフォイをよく見ることができるし、何を企んでいるかわかるかもしれない」
アイデアはよかったが、実現せずじまいだった。通路はランチ・カートを待つ生徒で一杯で、「マント」をかぶったまま通り抜けるのは不可能だった。じろじろ見られるのを避さけるためだけにでも使えたらよかったのに、と残念に思いながら、ハリーは「マント」をカバンに戻もどした。視線しせんは、さっきよりさらに強きょう烈れつになっているようだった。ハリーをよく見ようと、生徒たちがあちこちのコンパートメントから飛び出した。
例外はチョウ・チャンで、ハリーを見るとコンパートメントに駆かけ込んだ。ハリーが前を通り過ぎるとき、わざとらしく友達のマリエッタと話し込んでいる姿が見えた。マリエッタは厚あつ化げ粧しょうをしていたが、顔を横切って奇き妙みょうなニキビの配列が残っているのを、完全に隠かくしおおせてはいなかった。ハリーはちょっとほくそ笑んで、先へと進んだ。