「ポッター、尊とうといポッターか。『選ばれし者』を一目見てみたかったのは明らかだな」
マルフォイが嘲笑あざわらった。
「しかし、ウィーズリーの女の子とはね! あいつのどこがそんなに特別なんだ?」
「男の子に人気があるわ」
パンジーは、横目でマルフォイの反応を見ながら言った。
「あなたでさえ、ブレーズ、あの子が美人だと思ってるでしょう? しかも、あなたのおメガネに適かなうのはとっても難むずかしいって、みんな知ってるわ!」
「顔がどうだろうと、あいつみたいに血を裏切うらぎる穢けがれた小娘に手を出すものか」
ザビニが冷たく言った。パンジーはうれしそうな顔をした。マルフォイはまたその膝ひざに頭を載のせ、パンジーが髪かみを撫なでるがままにさせた。
「まあ、僕はスラグホーンの趣味しゅみを哀あわれむね。少しぼけてきたのかもしれないな。残念だ。父上はいつも、あの人が盛さかんなときにはいい魔法使いだったとおっしゃっていた。父上は、あの人にちょっと気に入られていたんだ。スラグホーンは、たぶん僕がこの汽車に乗っていることを聞いていなかったのだろう。そうでなければ――」
「僕なら、招しょう待たいされようなんて期待は持たないだろうな」ザビニが言った。
「僕がいちばん早く到着したんだが、そのときスラグホーンにノットの父親のことを聞かれた。どうやら旧きゅう知ちの仲だったらしい。しかし、彼は魔法省で逮捕たいほされたと言ってやったら、スラグホーンはあまりいい顔をしなかった。ノットも招かれていなかっただろう? スラグホーンは死し喰くい人びとには関心がないのだろうと思うよ」
マルフォイは腹を立てた様子だったが、無理に、妙みょうにしらけた笑い方をした。
「まあ、あいつが何に関心があろうと、知ったこっちゃない。結局のところ、あいつが何だって言うんだ? たかが間ま抜ぬけな教師じゃないか」
マルフォイがこれ見よがしの欠伸あくびをした。
「つまり、来年、僕はホグワーツになんかいないかも知れないのに、薹とうの立った太っちょの老いぼれが、僕のことを好きだろうとなんだろうと、どうでもいいことだろう?」
「来年はホグワーツにいないかもしれないって、どういうこと?」
パンジーが、マルフォイの毛づくろいをしていた手をとたんに止めて、憤慨ふんがいしたように言った。
「まあ、先のことはわからないだろう?」
マルフォイがわずかにニヒルな笑いを浮かべて言った。
「僕は――あー――もっと次元じげんの高い大きなことをしているかもしれない」
荷物棚だなで、「マント」に隠かくれてうずくまりながら、ハリーの心臓の鼓動こどうが早くなった。ロンやハーマイオニーが聞いたら何と言うだろう? クラッブとゴイルはポカンとしてマルフォイを見つめていた。次元の高い大きなことがどういう計画なのか、さっぱり見当がつかないらしい。ザビニでさえ、高慢こうまんな風貌ふうぼうが損そこなわれるほどあからさまな好奇心を覗のぞかせていた。パンジーは言葉を失ったように、再びマルフォイの髪かみをのろのろと撫なではじめた。