「もしかして――『あの人』のこと?」
マルフォイは肩をすくめた。
「母上は僕が卒業することをお望みだが、僕としては、このごろそれがあまり重要だとは思えなくてね。つまり、考えてみると……闇やみの帝てい王おうが支配なさるとき、O・W・LやN・E・W・Tが何科目なんて、『あの人』が気になさるか? もちろん、そんなことは問題じゃない……『あの人』のためにどのように奉仕ほうしし、どのような献身けんしんぶりを示してきたかだけが重要だ」
「それで、君が『あの人』のために何かできると思っているのか?」
ザビニが容赦ようしゃなく追つい及きゅうした。
「十六歳で、しかもまだ完全な資格もないのに?」
「たったいま言わなかったか? 『あの人』はたぶん、僕に資格があるかどうかなんて気になさらない。僕にさせたい仕事は、たぶん資格なんて必要ないものかもしれない」マルフォイが静かに言った。
クラッブとゴイルは、二人ともガーゴイルよろしく口を開けて座っていた。パンジーは、こんなに神々こうごうしいものは見たことがないという顔で、マルフォイをじっと見下ろしていた。
「ホグワーツが見える」
自分が作り出した効果をじっくり味わいながら、マルフォイは暗くなった車窓を指差した。
「ローブを着たほうがいい」
ハリーはマルフォイを見つめるのに気を取られ、ゴイルがトランクに手を伸ばしたのに気づかなかった。ゴイルがトランクを振り回して棚たなから下ろす拍ひょう子しに、ハリーの頭の横にゴツンと当たり、ハリーは思わず声を漏もらした。マルフォイが顔をしかめて荷物棚だなを見上げた。
ハリーはマルフォイが怖こわいわけではなかったが、仲のよくないスリザリン生たちに、「透とう明めいマント」に隠かくれているところを見つかってしまうのは気に入らなかった。目は潤うるみ、頭はズキズキ痛んでいたが、ハリーは「マント」を乱さないように注意しながら杖つえを取り出し、息をひそめて待った。マルフォイは、結局空耳そらみみだったと思い直したらしく、ハリーはほっとした。マルフォイは、ほかのみんなと一いっ緒しょにローブを着て、トランクの鍵かぎをかけ、汽車が速度を落としてガタン、ガタンと徐行じょこうを始めると、厚手の新しい旅行マントの紐ひもを首のところで結んだ。