ハリーは通路がまた人で混み合ってくるのを見ながら、ハーマイオニーとロンが自分の荷物を代わりにプラットホームに降ろしてくれればいいが、と願っていた。このコンパートメントがすっかり空になるまで、ハリーはこの場から動けない。
最後に大きくガタンと揺ゆれ、列車は完全に停止した。ゴイルがドアをバンと開け、二年生の群れを拳骨げんこつで押しのけながら、強引に出ていった。クラッブとザビニがそれに続いた。
「先に行け」
マルフォイに握ってほしそうに、手を伸ばして待っているパンジーに、マルフォイが言った。
「ちょっと調べたいことがある」
パンジーがいなくなった。コンパートメントには、ハリーとマルフォイだけだった。生徒たちは列をなして通り過ぎ、暗いプラットホームに降りていった。マルフォイはコンパートメントのドアのところに行き、ブラインドを下ろし、通路側から覗のぞかれないようにした。それからトランクの上に屈かがんで、いったん閉じた蓋ふたをまた開けた。
ハリーは荷物棚の端はしから覗のぞき込んだ。心臓の鼓動こどうが少し早くなった。パンジーからマルフォイが隠かくしたい物は何だろう? 修理がそれほど大切だという、あの謎なぞの品物が見えるのだろうか?
「ペトリフィカス トタルス! 石になれ!」
マルフォイが不意を衝ついてハリーに杖を向け、ハリーはたちまち金縛かなしばりにあった。スローモーション撮影さつえいのように、ハリーは荷物棚から転げ落ち、床を震ふるわせるほどの痛々しい衝しょう撃げきとともにマルフォイの足下あしもとに落下した。「透とう明めいマント」は体の下敷きになり、脚あしを海え老びのように丸めてうずくまったままの滑稽こっけいな格好かっこうで、ハリーの全身が現れた。筋肉の一ひと筋すじも動かせない。にんまりほくそ笑えんでいるマルフォイを下からじっと見つめるばかりだった。
「やはりそうか」マルフォイが酔よいしれたように言った。
「ゴイルのトランクがおまえにぶつかったのが聞こえた。それに、ザビニが戻もどってきたとき、何か白い物が一いっ瞬しゅん、空中に光るのを見たような気がした……」
マルフォイはハリーのスニーカーにしばらく目を止めていた。
「ザビニが戻ってきたときにドアをブロックしたのは、おまえだったんだな?」
マルフォイは、どうしてやろうかとばかり、しばらくハリーを眺ながめていた。
「ポッター、おまえは、僕が聞かれて困るようなことを、何も聞いちゃいない。しかし、せっかくここにおまえがいるうちに……」
そしてマルフォイは、ハリーの顔を思い切り踏ふみつけた。ハリーは鼻はなが折れるのを感じた。そこら中に血が飛び散った。
「いまのは僕の父上からだ。さてと……」
マルフォイは動けないハリーの体の下から「マント」を引っぱり出し、ハリーを覆おおった。
「汽車がロンドンに戻もどるまで、誰だれもおまえを見つけられないだろうよ」
マルフォイが低い声で言った。
「また会おう、ポッター……それとも会わないかな」
そして、わざとハリーの指を踏ふみつけ、マルフォイはコンパートメントを出ていった。