赤い光が閃ひらめき、ハリーの体が解凍かいとうした。少しは体裁ていさいのよい姿勢で座れるようになったし、傷ついた顔から鼻血を手の甲でさっと拭ぬぐうこともできた。顔を上げると、トンクスだった。いま剥はがしたばかりの「透とう明めいマント」を持っている。
「ここを出なくちゃ。早く」
列車の窓が水すい蒸じょう気きで曇くもり、汽車はまさに駅を離れようとしていた。
「さあ、飛び降りよう」
トンクスのあとから、ハリーは急いで通路に出た。トンクスはデッキのドアを開け、プラットホームに飛び降りた。汽車は速度を上げはじめ、ホームが足下あしもとを流れるように見えた。ハリーもトンクスに続いた。着地でよろめき、体勢たいせいを立て直したときには、紅くれないに光る機関車はさらにスピードを増し、やがて角を曲がって見えなくなった。
ズキズキ痛む鼻はなに、冷たい夜や気きが優やさしかった。トンクスがハリーを見つめていた。あんな滑こっ稽けいな格好かっこうで発見されたことで、ハリーは腹が立ったし、恥はずかしかった。トンクスは黙だまって「透明マント」を返した。
「誰だれにやられた?」
「ドラコ・マルフォイ」ハリーが悔くやしげに言った。
「ありがとう……あの……」
「いいんだよ」
トンクスがにこりともせずに言った。暗い中で見るトンクスは、「隠かくれ穴あな」で会ったときと同じくすんだ茶色の髪かみで、惨みじめな表情をしていた。
「じっと立っててくれれば、鼻を治なおしてあげられるよ」
ご遠えん慮りょ申し上げたい、とハリーは思った。校医のマダム・ポンフリーのところへ行くつもりだった。癒い術じゅつの呪じゅ文もんにかけては、校医のほうがやや信頼しんらいできる。しかしそんなことを言うのは失礼だと思い、ハリーは目をつむってじっと動かずに立っていた。
「エピスキー! 鼻血癒いえよ!」トンクスが唱となえた。
鼻がとても熱くなり、それからとても冷たくなった。ハリーは恐る恐る鼻に手をやった。どうやら治っている。
「どうもありがとう!」
「『マント』を着たほうがいい。学校まで歩いていこう」