ハリーが再び「マント」をかぶると、トンクスが杖つえを振った。杖先からとても大きな銀色の四足よんそくの生き物が現れ、暗くら闇やみを矢のように飛び去った。
「いまのは『守しゅ護ご霊れい』だったの?」
ハリーは、ダンブルドアが同じような方法で伝言を送るのを見たことがあった。
「そう。君を保ほ護ごしたと城に伝言した。そうしないと、みんなが心配する。行こう。ぐずぐずしてはいられない」
二人は学校への道を歩きはじめた。
「どうやって僕を見つけたの?」
「君が列車から降りていないことに気づいたし、君が『マント』を持っていることも知っていた。何か理由があって隠かくれているのかもしれないと考えた。あのコンパートメントにブラインドが下りているのを見て、調べてみようと思ったんだ」
「でも、そもそもここで何をしているの?」ハリーが聞いた。
「わたしはいま、ホグズミードに配置されているんだ。学校の警備けいびを補ほ強きょうするために」
トンクスが言った。
「ここに配置されているのは、君だけなの? それとも――」
「プラウドフット、サベッジ、それにドーリッシュもここにいる」
「ドーリッシュって、先学期ダンブルドアがやっつけたあの闇やみ祓ばらい?」
「そう」いましがた馬車が通ったばかりの轍わだちの跡あとをたどりながら、二人は暗く人気ひとけのない道を黙々もくもくと歩いた。「マント」に隠れたまま、ハリーは横のトンクスを見た。
去年、トンクスは聞きたがり屋だったし(ときには、うるさいと思うぐらいだった)、よく笑い、冗じょう談だんを飛ばした。いまのトンクスは老ふけたように見えたし、まじめで決然けつぜんとしていた。これが魔法省で起こったことの影えい響きょうなのだろうか? ハーマイオニーなら、シリウスのことでトンクスに慰なぐさめの言葉をかけなさい、トンクスのせいではないと言いなさいと促うながすだろうな――ハリーは気まずい思いでそう考えたが、どうしても言い出せなかった。シリウスが死んだことで、トンクスを責せめる気はさらさらなかった。トンクスの責任でもなければ誰だれの責任でもない(むしろ自分の責任だ)。しかし、できればシリウスのことは話したくなかった。
二人は黙だまったまま、寒い夜を、ただてくてく歩いた。トンクスの長いマントが、二人の背後で囁ささやくように地面をこすっていた。