一分かそこら、スネイプは口をきかなかった。ハリーは、自分の体から憎しみが波のように発はっ散さんするのを感じた。スネイプの体を焼くほど強い波なのに、スネイプが何も感じていないのは信じられなかった。はじめて出会ったときから、ハリーはスネイプを憎悪ぞうおしていた。しかし、スネイプがシリウスに対して取った態度のせいで、いまやスネイプは、ハリーにとって絶対に、そして永久に許すことのできない存在になっていた。
ハリーはこの夏の間にじっくり考えたし、ダンブルドアが何と言おうと、すでに結論を出していた。スネイプは、騎き士し団だんのほかのメンバーがヴォルデモートと戦っているときに、シリウスがのうのうと隠かくれていたと言った。おそらく、悪意に満ちたスネイプの言葉の数々が強い引き金になって、あの夜、シリウスが死んだあの夜、シリウスは向こう見ずにも魔法省に出かけたのだ。
ハリーはこの考えにしがみついていた。そうすればスネイプを責せめることができるし、責めることで満足できたからだ。それに、シリウスの死を悲しまないやつがいるとすれば、それは、いまハリーと並んで暗くら闇やみの中をずんずん歩いていく、この男だ。
「遅刻でグリフィンドール五十点減点だな」スネイプが言った。
「さらに、フーム、マグルの服装のせいで、さらに二十点減点。まあ、新学期に入ってこれほど早期にマイナス得点になった寮りょうはなかろうな――まだデザートも出ていないのに。記録を打ち立てたかもしれんぞ、ポッター」
腸はらわたが煮にえくり返り、白熱した怒りと憎しみが炎となって燃え上がりそうだった。しかし、遅れた理由をスネイプに話すくらいなら、身動きできないままロンドンに戻もどるほうがまだましだ。
「たぶん、衝しょう撃げきの登場をしたかったのだろうねえ?」スネイプがしゃべり続けた。
「空飛ぶ車がない以上、宴うたげの途中で大おお広ひろ間まに乱入すれば、劇的げきてきな効果があるに違いないと判断したのだろう」
ハリーはそれでも黙だまったままだったが、胸きょう中ちゅうは爆発寸前だった。スネイプがわざわざハリーを迎えにきたのはこのためだと、ハリーにはわかっていた。ほかの誰だれにも聞かれることなく、ハリーをチクチクと苛さいなむことができるこの数分間のためだった。
二人はやっと城の階段にたどり着いた。がっしりした樫かしの扉とびらが左右に開き、板石いたいしを敷しき詰めた広大な玄げん関かんホールが現れると、大広間に向かって開かれた扉を通して、弾はじけるような笑い声や話し声、食器やグラスが触ふれ合う音が二人を迎えた。ハリーは「透とう明めいマント」をまたかぶれないだろうかと思った。そうすれば誰にも気づかれずにグリフィンドールの長テーブルに座れる(都合つごうの悪いことに、グリフィンドールのテーブルは玄関ホールからいちばん遠くにあった)。
しかし、ハリーの心を読んだかのようにスネイプが言った。
「『マント』は、なしだ。全員が君を見られるように、歩いていきたまえ。それがお望みだったと存ずるがね」