ハリーは即座そくざにくるりと向きを変え、開いている扉とびらにまっすぐ突き進んだ。スネイプから離れるためなら何でもする。長テーブル四卓よんたくといちばん奥に教きょう職しょく員いんテーブルが置かれた大おお広ひろ間まは、いつものように飾かざりつけられていた。蝋燭ろうそくが宙に浮かび、その下の食器類をキラキラ輝かがやかせている。しかし、急ぎ足で歩いているハリーには、すべてがぼやけた光の点滅てんめつにしか見えなかった。あまりの速さに、ハッフルパフ生がハリーを見つめはじめるころにはもうそのテーブルを通り過ぎ、よく見ようと生徒たちが立ち上がったときにはもう、ロンとハーマイオニーを見つけ、ベンチ沿ぞいに飛ぶように移動して、二人の間に割り込んでいた。
「どこにいたん――何だい、その顔はどうしたんだ?」
ロンは周まわりの生徒たちと一いっ緒しょになってハリーをじろじろ見ながら言った。
「なんで? どこか変か?」
ハリーはガバッとスプーンをつかみ、そこに歪ゆがんで映うつっている自分の顔を、目を細くして見た。
「血だらけじゃない!」ハーマイオニーが言った。「こっちに来て――」
ハーマイオニーは杖つえを上げて、「テルジオ! 拭ぬぐえ!」と唱となえ、血糊ちのりを吸すい取った。
「ありがと」
ハリーは顔に手を触ふれて、きれいになったのを感じながら言った。
「鼻はなはどんな感じ?」
「普通よ」ハーマイオニーが心配そうに言った。
「あたりまえでしょう? ハリー、何があったの? 死ぬほど心配したわ!」
「あとで話すよ」ハリーは素そっ気けなく言った。
ジニー、ネビル、ディーン、シェーマスが聞き耳を立てているのに、ちゃんと気づいていたのだ。グリフィンドールのゴーストの「ほとんど首無しニック」まで、盗み聞きしようと、テーブルに沿そってふわふわ漂ただよっていた。
「でも――」ハーマイオニーが言いかけた。
「いまはだめだ、ハーマイオニー」
ハリーは、意味ありげな暗い声で言った。ハリーが何か勇ましいことに巻き込まれたと、みんなが想像してくれればいいと願った。できれば死し喰くい人びと二人に吸きゅう魂こん鬼き一体ぐらいが関わったと思ってもらえるといい。もちろん、マルフォイは、話をできるかぎり吹ふい聴ちょうしようとするだろうが、グリフィンドール生の間にはそれほど伝わらない可能性だってある。