「それで、スラグホーン先生は何がお望みだったの?」ハーマイオニーが聞いた。
「魔法省で、ほんとは何が起こったかを知ること」ハリーが言った。
「先生も、ここにいるみんなも同じだわ」ハーマイオニーがフンと鼻を鳴らした。
「列車の中でも、みんなにそのことを問い詰められたわよね? ロン?」
「ああ」ロンが言った。
「君がほんとに『選ばれし者』なのかどうか、みんなが知りたがって――」
「まさにそのことにつきましては、ゴーストの間でさえ、さんざん話題になっております」
「ほとんど首無しニック」がほとんどつながっていない首をハリーのほうに傾けたので、首が襞襟ひだえりの上で危なっかしげにぐらぐらした。
「私はポッターの権けん威い者しゃのように思われております。私たちの親しさは知れ渡っていますからね。ただし、私は霊界れいかいの者たちに、君を煩わずらわせてまで情報を聞き出すようなまねはしないと、はっきり宣せん言げんしております。『ハリー・ポッターは、私になら、全幅ぜんぷくの信頼を置いて秘密を打ち明けることができると知っている』。そう言ってやりましたよ。『彼の信頼を裏切うらぎるくらいなら、むしろ死を選ぶ』とね」
「それじゃ大したこと言ってないじゃないか。もう死んでるんだから」ロンが意見を述べた。
「またしてもあなたは、なまくら斧おののごとき感かん受じゅ性せいを示される」
「ほとんど首無しニック」は公然こうぜんたる侮ぶ辱じょくを受けたかのようにそう言うと、宙に舞い上がり、するするとグリフィンドールのテーブルのいちばん端はしに戻もどった。ちょうどそのとき、教きょう職しょく員いんテーブルのダンブルドアが立ち上がった。大おお広ひろ間まに響ひびいていた話し声や笑い声が、あっという間に消えた。
「みなさん、すばらしい夜じゃ!」
ダンブルドアがにっこりと笑い、大広間の全員を抱きしめるかのように両手を広げた。
「手をどうなさったのかしら?」ハーマイオニーが息を呑のんだ。
気づいたのはハーマイオニーだけではなかった。ダンブルドアの右手は、ダーズリー家にハリーを迎えにきた夜と同じように、死んだような黒い手だった。囁ささやき声が広間中を駆かけめぐった。ダンブルドアはその反応を正確に受け止めたが、単に微笑ほほえんだだけで、紫と金色の袖そでを振り下ろして傷を覆おおった。