ダンブルドアの右側に座っているスネイプは、名前を言われても立ち上がりもせず、スリザリン・テーブルからの拍手に大儀たいぎそうに応こたえて、片手を挙げただけだった。しかしハリーは、憎んでもあまりあるスネイプの顔に、勝ち誇ほこった表情が浮かんでいるのを、たしかに読み取った。
「まあ、一つだけいいことがある」ハリーが残酷ざんこくにも言った。
「この学年の終わりまでには、スネイプはいなくなるだろう」
「どういう意味だ?」ロンが聞いた。
「あの職は呪のろわれている。一年より長く続いたためしがない……クィレルは途中で死んだくらいだ。僕個人としては、もう一人死ぬように願がんをかけるよ……」
「ハリー!」ハーマイオニーはショックを受け、責せめるように言った。
「今学年が終わったら、スネイプは元の『魔ま法ほう薬やく学がく』に戻もどるだけの話かもしれない」
ロンが妥当だとうなことを言った。
「あのスラグホーンてやつ、長く教えたがらないかもしれない。ムーディもそうだった」
ダンブルドアが咳払せきばらいした。私語していたのはハリー、ロン、ハーマイオニーだけではなかった。スネイプがついに念願ねんがんを成じょう就じゅしたというニュースに、大おお広ひろ間ま中がてんでんに会話を始めていた。
たったいまどんなに衝しょう撃げき的てきなニュースを発表したかなど気づいていないかのように、ダンブルドアは教きょう職しょく員いんの任命についてはそれ以上何も言わなかった。しかし、ちょっと間を置き、完全に静かになるのを待って、話を続けた。
「さて、この広間におる者は誰だれもが知ってのとおり、ヴォルデモート卿きょうとその従じゅう者しゃたちが、再び跋扈ばっこし、力を強めておる」
ダンブルドアが話すにつれ、沈ちん黙もくが張りつめ、研とぎ澄すまされていくようだった。ハリーはマルフォイをちらりと見た。マルフォイはダンブルドアには目もくれず、まるで校長の言葉など傾けい聴ちょうに値しないかのように、フォークを杖つえで宙に浮かしていた。
「現在の状況がどんなに危険であるか、また、我々が安全に過ごすことができるよう、ホグワーツの一人ひとりが十分注意すべきであるということは、どれほど強調してもしすぎることはない。この夏、城の魔法の防ぼう衛えいが強化された。いっそう強力な新しい方法で、我々は保ほ護ごされておる。しかし、やはり、生徒や教職員の皆が、軽率けいそつなことをせぬように慎しん重ちょうを期さねばならぬ。それじゃから皆に言うておく。どんなにうんざりするようなことであろうと、先生方が生徒の皆に課かす安全上の制せい約やく事じ項こうを遵じゅん守しゅするよう――特に、決められた時間以降は、夜間、ベッドを抜け出してはならぬという規則じゃ。わしからのたっての願いじゃが、城の内外で何か不審ふしんなもの、怪しげなものに気づいたら、すぐに教職員に報告するよう。生徒諸君しょくんが、常に自分自身と互いの安全とに最大の注意を払って行動するものと信じておる」
ダンブルドアのブルーの目が生徒全体を見渡し、それからもう一度微笑ほほえんだ。
「しかしいまは、ベッドが待っておる。皆が望みうるかぎり最高にふかふかで暖かいベッドじゃ。皆にとっていちばん大切なのは、ゆっくり休んで明日からの授じゅ業ぎょうに備えることじゃろう。それではおやすみの挨あい拶さつじゃ。そーれ行け、ピッピッ!」