いつもの騒音が始まった。ベンチを後ろに押しやって立ち上がった何百人もの生徒が、列をなして大広間からそれぞれの寮りょうに向かった。一いっ緒しょに大広間を出ればじろじろ見られるし、マルフォイに近づけば、鼻はなを踏ふみつけた話を繰くり返させるだけだ。どちらにしても急ぎたくなかったハリーは、スニーカーの靴紐くつひもを結び直すふりをしてぐずぐずし、グリフィンドール生の大部分をやり過ごした。ハーマイオニーは、一年生を引率いんそつするという監かん督とく生せいの義ぎ務むを果たすために飛んでいったが、ロンはハリーと残った。
「君の鼻はな、ほんとはどうしたんだ?」
急いで大おお広ひろ間まを出てゆく群れのいちばん後ろにつき、誰だれにも声が聞こえなくなったとき、ロンが聞いた。
ハリーはロンに話した。ロンが笑わなかったことが、二人の友情の絆きずなの証あかしだった。
「マルフォイが、何か鼻に関係するパントマイムをやってるのを見たんだ」
ロンが暗い表情で言った。
「ああ、まあ、それは気にするな」ハリーは苦々にがにがしげに言った。
「僕がやつに見つかる前に、あいつが何を話してたかだけど……」
マルフォイの自慢じまん話を聞いてロンが驚きょう愕がくするだろうと、ハリーは期待していた。ところが、ロンはさっぱり感じないようだった。ハリーに言わせれば、ガチガチの石頭だ。
「いいか、ハリー、あいつはパーキンソンの前でいいかっこして見せただけだ……『例れいのあの人』が、あいつにどんな任務を与えるっていうんだ?」
「ヴォルデモートは、ホグワーツに誰かを置いておく必要がないか? 何もこんどがはじめてっていうわけじゃ――」
「ハリー、その名前なめえを言わねえでほしいもんだ」
二人の背後で、咎とがめるような声がした。振り返るとハグリッドが首を振っていた。
「ダンブルドアはその名前で呼ぶよ」ハリーは頑がんとして言った。
「ああ、そりゃ、それがダンブルドアちゅうもんだ。そうだろうが?」
ハグリッドが謎なぞめいたことを言った。
「そんで、ハリー、なんで遅れた? 俺おれは心配しとったぞ」
「汽車の中でもたもたしてね」ハリーが言った。
「ハグリッドはどうして遅れたの?」