一時間後、二人は、しぶしぶ太陽が降ふり注ぐ談話室を離れ、四階下の「闇やみの魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ」の教室に向かった。ハーマイオニーは重い本を腕一杯抱え、「理り不ふ尽じんだわ」という顔で、すでに教室の外に並んでいた。
「ルーン文字で宿題をいっぱい出されたの」
ハリーとロンがそばに行くと、ハーマイオニーが不安げに言った。
「エッセイを四十センチ、翻訳ほんやくが二つ、それにこれだけの本を水曜日までに読まなくちゃならないのよ!」
「ご愁しゅう傷しょう様さま」ロンが欠伸あくびをした。
「見てらっしゃい」ハーマイオニーが恨うらめしげに言った。
「スネイプもきっと山ほど出すわよ」
その言葉が終わらないうちに教室のドアが開き、スネイプが、いつものとおり、両開きのカーテンのようなねっとりした黒くろ髪かみで縁取ふちどられた土つち気け色いろの顔で、廊下ろうかに出てきた。行列がたちまち、しーんとなった。
「中へ」スネイプが言った。
ハリーは、あたりを見回しながら入った。スネイプはすでに、教室にスネイプらしい個性を持ち込んでいた。窓にはカーテンが引かれていつもより陰気いんきくさく、蝋燭ろうそくで灯あかりを取っている。壁かべに掛かけられた新しい絵の多くは、身の毛もよだつ怪け我がや奇き妙みょうにねじ曲がった体の部分をさらして、痛み苦しむ人の姿だった。薄暗うすぐらい中で凄惨せいさんな絵を見回しながら、生徒たちは無言で席に着いた。
「我わが輩はいはまだ教科書を出せとは頼んでおらん」
ドアを閉め、生徒と向き合うため教きょう壇だんの机に向かって歩きながら、スネイプが言った。ハーマイオニーは慌あわてて「顔のない顔に対面する」の教科書をカバンに戻もどし、椅い子すの下に置いた。
「我輩が話をする。十分傾けい聴ちょうするのだ」
暗い目が、顔を上げている生徒たちの上を漂ただよった。ハリーの顔に、ほかの顔よりわずかに長く視線しせんが止まった。
「我輩が思うに、これまで諸君しょくんはこの学科で五人の教師を持った」
「思う?……スネイプめ、全員が次々といなくなるのを見物しながら、こんどこそ自分がその職に就つきたいと思っていたくせに」ハリーは心の中で痛烈つうれつに嘲あざけった。