「当然、こうした教師たちは、それぞれ自分なりの方法と好みを持っていた。そうした混乱にもかかわらず、かくも多くの諸君が辛からくもこの学科のO・W・L合格点を取ったことに、我輩は驚いておる。N・E・W・Tはそれよりずっと高度であるからして、諸君が全員それについてくるようなことがあれば、我輩はさらに驚くであろう」
スネイプは、こんどは低い声で話しながら教室の端はしを歩きはじめ、クラス中が首を伸ばしてスネイプの姿を見失わないようにした。
「『闇やみの魔ま術じゅつ』は――」スネイプが言った。「多た種しゅ多た様よう、千せん変ぺん万ばん化か、流りゅう動どう的てきにして永遠なるものだ。それと戦うということは、多くの頭を持つ怪物と戦うに等しい。首を一つ切り落としても別の首が、しかも前より獰猛どうもうで賢かしこい首が生えてくる。諸君の戦いの相手は、固定できず、変へん化げし、破は壊かい不能なものだ」
ハリーはスネイプを凝ぎょう視しした。危険な敵である「闇の魔術」を侮あなどるべからずというのなら頷うなずける。しかし、いまのスネイプのように、やさしく愛撫あいぶするような口調で語るのは、話が違ちがうだろう?
「諸君の防ぼう衛えい術じゅつは」スネイプの声がわずかに高くなった。「それ故ゆえ、諸君が破ろうとする相手の術と同じく、柔じゅう軟なんにして創そう意い的てきでなければならぬ。これらの絵は――」
絵の前を早足で通り過ぎながら、スネイプは何枚かを指差した。
「術にかかった者たちがどうなるかを正しく表現している。たとえば『磔はりつけの呪じゅ文もん』の苦しみ(スネイプの手は、明らかに苦痛に悲鳴を上げている魔女の絵を指していた)、『吸きゅう魂こん鬼きのキス』の感覚(壁かべにぐったりと寄り掛かかり、虚うつろな目をしてうずくまる魔法使い)、『亡者もうじゃ』の攻撃こうげきを挑ちょう発はつした者(地上に血だらけの塊かたまり)」。
「それじゃ、『亡者』が目もく撃げきされたんですか?」
パーバティ・パチルが甲高かんだかい声で聞いた。
「間違いないんですか?『あの人』がそれを使っているんですか?」
「『闇の帝てい王おう』は過去に『亡者』を使った」スネイプが言った。
「となれば、再びそれを使うかも知れぬと想定するのが賢明けんめいというものだ。さて……」
スネイプは教室の後ろを回り込み、教きょう壇だんの机に向かって教室の反対側の端を歩き出した。黒いマントを翻ひるがえして歩くその姿を、クラス全員がまた目で追った。