「……諸君は、我輩の見るところ、無む言ごん呪じゅ文もんの使用に関してはずぶの素人しろうとだ。無言呪文の利点は何か?」
ハーマイオニーの手がさっと挙がった。スネイプはほかの生徒を見渡すのに時間をかけたが、選択せんたくの余地がないことを確認してからやっと、ぶっきらぼうに言った。
「それでは――ミス・グレンジャー?」
「こちらがどんな魔法をかけようとしているかについて、敵てき対たい者しゃに何の警告けいこくも発しないことです」ハーマイオニーが答えた。
「それが、一いっ瞬しゅんの先手を取るという利点になります」
「『基き本ほん呪じゅ文もん集しゅう・六学年用』と、一字一句違たがわぬ丸写しの答えだ」
スネイプが素そっ気けなく言った(隅すみにいたマルフォイがせせら笑った)。
「しかし、概おおむね正解だ。左様さよう。呪文を声高こわだかに唱となえることなく魔法を使う段階に進んだ者は、呪文をかける際、驚きという要素ようその利点を得る。言うまでもなく、すべての魔法使いが使える術ではない。集中力と意思力の問題であり、こうした力は、諸君しょくんの何人かに――」
スネイプは再び、悪意に満ちた視線しせんをハリーに向けた。
「欠如けつじょしている」
スネイプが、先学年の惨憺さんたんたる「閉へい心しん術じゅつ」の授じゅ業ぎょうのことを念頭ねんとうに置いているのはわかっていた。ハリーは意地でもその視線をはずすまいと、スネイプを睨にらみつけ、やがてスネイプが視線をはずした。
「これから諸君は」スネイプが言葉を続けた。「二人一組になる。一人が無言で相手に呪のろいをかけようとする。相手も同じく無言でその呪いを撥はね返そうとする。では、始めたまえ」
スネイプは知らないのだが、ハリーは先学年、このクラスの半数に(DディーAエイのメンバーだった者全員に)「盾たての呪じゅ文もん」を教えた。しかし、無言で呪文をかけたことがある者は一人としていない。しばらくすると、当然のごまかしが始まり、声に出して呪文を唱える代わりに、囁ささやくだけの生徒がたくさんいた。十分後には、例によってハーマイオニーが、ネビルの呟つぶやく「くらげ足の呪のろい」を一ひと言ことも発せずに撥はね返すのに成功した。まっとうな先生なら、グリフィンドールに二十点を与えただろうと思われる見事な成果なのに――ハリーは悔くやしかったが、スネイプは知らぬふりだ。相変わらず育ちすぎたコウモリそのものの姿で、生徒が練習する間をバサーッと動き回り、課題に苦労しているハリーとロンを、立ち止まって眺ながめた。