「さて、さて、さーてと」
スラグホーンが言った。巨大な塊かたまりのような姿が、いく筋すじも立ち昇る湯気の向こうでゆらゆら揺ゆれて見えた。
「みんな、秤はかりを出して。魔法薬キットもだよ。それに『上じょう級きゅう魔ま法ほう薬やく』の……」
「先生?」ハリーが手を挙げた。
「ハリー、どうしたのかね?」
「僕は本も秤も何も持っていません――ロンもです――僕たちN・E・W・Tが取れるとは思わなかったものですから、あの――」
「ああ、そうそう。マクゴナガル先生がたしかにそうおっしゃっていた……心配には及ばんよ、ハリー、まったく心配ない。今日は貯ちょ蔵ぞう棚だなにある材料を使うといい。秤も問題なく貸してあげられるし、教科書も古いのが何冊か残っている。フローリシュ・アンド・ブロッツに手紙で注文するまでは、それで間に合うだろう……」
スラグホーンは隅すみの戸棚とだなにずんずん歩いていき、中をガザガサやっていたが、やがて、だいぶくたびれた感じのリバチウス・ボラージ著「上級魔法薬」を二冊引っぱり出した。スラグホーンは、黒ずんだ秤と一いっ緒しょにその教科書を、ハリーとロンに渡した。
「さーてと」
スラグホーンは教室の前に戻り、もともと膨ふくれている胸をさらに膨らませた。ベストのボタンが弾はじけ飛びそうだ。
「みんなに見せようと思って、いくつか魔法薬を煎せんじておいた。ちょっとおもしろいと思ったのでね。N・E・W・Tを終えたときには、こういうものを煎じることができるようになっているはずだ。まだ調ちょう合ごうしたことがなくとも、名前ぐらい聞いたことがあるはずだ。これが何だか、わかる者はおるかね?」
スラグホーンは、スリザリンのテーブルにいちばん近い大おお鍋なべを指した。ハリーが椅い子すからちょっと腰こしを浮かして見ると、単純に湯が沸わいているように見えた。