「そしてこれを」
スラグホーンは、現実に引き戻もどされたような雰ふん囲い気きで言った。
「今日の授じゅ業ぎょうの褒美ほうびとして提供する」
しんとなった。周まわりの魔法薬がグツグツ、ブツブツいう音がいっせいに十倍になったようだった。
「フェリックス・フェリシスの小瓶こびん一本」
スラグホーンはコルク栓せんをした小さなガラス瓶をポケットから取り出して全員に見せた。
「十二時間分の幸運に十分な量だ。明け方から夕暮れまで、何をやってもラッキーになる」
「さて、警告けいこくしておくが、フェリックス・フェリシスは組織的な競きょう技ぎや競きょう争そう事ごとでは禁止されている……たとえばスポーツ競技、試験や選挙などだ。これを獲得かくとくした生徒は、通常の日にだけ使用すること……そして通常の日がどんなに異常にすばらしくなるかを御覧ごろうじろ!」
「そこで――」
スラグホーンは急にきびきびした口調になった。
「このすばらしい賞しょうをどうやって獲得かくとくするか? さあ、『上じょう級きゅう魔ま法ほう薬やく』の十ページを開くことだ。あと一時間と少し残っているが、その時間内に、『生ける屍しかばねの水みず薬ぐすり』にきっちりと取り組んでいただこう。これまで君たちが習ってきた薬よりずっと複雑ふくざつなことはわかっているから、誰だれにも完璧かんぺきな仕上がりは期待していない。しかし、いちばんよくできた者が、この愛すべきフェリックスを獲得する。さあ、始め!」
それぞれが大おお鍋なべを手元に引き寄せる音がして、秤はかりに錘おもりを載のせる、コツンコツンという大きな音も聞こえてきた。誰も口をきかなかった。部屋中が固く集中する気配は、手で触さわれるかと思うほどだった。マルフォイを見ると、「上じょう級きゅう魔ま法ほう薬やく」を夢中でめくっていた。マルフォイが、何としても幸運な日がほしいと思っているのは、一いち目もく瞭りょう然ぜんだった。ハリーも急いで、スラグホーンが貸してくれたボロボロの本を覗のぞき込んだ。
前の持ち主がページ一杯に書き込みをしていて、余白よはくが本文ほんもんと同じくらい黒々としているのには閉口へいこうした。いっそう目を近づけて材料を何とか読み取り(前の持ち主は材料の欄らんにまでメモを書き込んだり、活字を線で消したりしていた)、必要な物を取りに材料棚だなに急いだ。大急ぎで自分の大おお鍋なべに戻もどるときに、マルフォイが全速力でカノコソウの根を刻きざんでいるのが見えた。