全員が、ほかの生徒のやっていることをちらちら盗み見ていた。魔法薬学のよい点でも悪い点でもあるが、自分の作業を隠かくすことは難むずかしかった。十分後、あたり全体に青みがかった湯気が立ち込めた。言うまでもなく、ハーマイオニーがいちばん進んでいるようだった。煎せんじ薬ぐすりがすでに、教科書に書かれている理想的な中間段階、「滑なめらかなクロスグリ色の液体」になっていた。
ハリーも根っこを刻み終わり、もう一度本を覗き込んだ。前の所有者のばかばかしい走り書きが邪魔じゃまで、教科書の指示が判読はんどくしにくいのにはまったくいらいらさせられた。この所有者は、なぜか「催さい眠みん豆まめ」の切り方の指示に難癖なんくせをつけ、別の指示を書き込んでいた。
「銀の小こ刀がたなの平たい面で砕くだけ。切るより多くの汁しるが出る」
「先生、僕の祖そ父ふのアブラクサス・マルフォイをご存知ぞんじですね?」
ハリーは目を上げた。スラグホーンがスリザリンのテーブルを通り過ぎるところだった。
「ああ」スラグホーンはマルフォイを見ずに答えた。
「お亡なくなりになったと聞いて残念ざんねんだった。もっとも、もちろん、予期せぬことではなかった。あの歳としでの龍りゅう痘とうだし……」
そしてスラグホーンはそのまま歩き去った。ハリーはニヤッと笑いながら再び自分の大鍋に屈かがみ込んだ。マルフォイは、ハリーやザビニと同じような待遇たいぐうを期待したに違いない。おそらくスネイプに特別扱いされる癖くせがついていて、同じような待遇を望んだのかもしれない。しかし、フェリックス・フェリシスの瓶びんを獲得するには、マルフォイ自身の才能に頼るしかないようだ。
「催眠豆」はとても刻みにくかった。ハリーはハーマイオニーを見た。
「君の銀のナイフ、借りてもいいかい?」
ハーマイオニーは自分の薬から目を離さず、苛立いらだちを隠さず頷うなずいた。薬はまだ深い紫色をしている。教科書によれば、もう明るいライラック色になっているはずなのだ。
ハリーは小刀の平たい面で豆を砕いた。驚いたことに、たちまち、こんな萎しなびた豆のどこにこれだけの汁があったかと思うほどの汁が出てきた。急いで全部すくって大鍋に入れると、なんと、薬はたちまち教科書どおりのライラック色に変わった。