「何でもないよ」ハリーは低い声で、安心させるように言った。
「あれとは違うんだ、ほら、リドルの日記とは。誰かが書き込みをした古い教科書にすぎないんだから」
「でも、あなたは、書いてあることに従ったんでしょう?」
「余白よはくに書いてあったヒントを、いくつか試してみただけだよ。ほんと、ジニー、何にも変なことは――」
「ジニーの言うとおりだわ」ハーマイオニーがたちまち活気かっきづいた。
「その本におかしなところがないかどうか、調べてみる必要があるわ。だって、いろいろ変な指示があるし。もしかしたらってこともあるでしょ?」
「おい!」
ハーマイオニーがハリーのカバンから「上じょう級きゅう魔ま法ほう薬やく」の本を取り出し、杖つえを上げたので、ハリーは憤慨ふんがいした。
「スペシアリス・レベリオ! 化けの皮 剥はがれよ!」
ハーマイオニーは表紙をすばやくコツコツ叩たたきながら唱となえた。
何にも、いっさい何にも起こらなかった。教科書はおとなしく横たわっていた。古くて汚くて、ページの角が折れているだけの本だった。
「終わったかい?」ハリーが苛いらつきながら言った。
「それとも、二、三回とんぼ返りするかどうか、様子を見てみるかい?」
「大丈夫そうだわ」
ハーマイオニーはまだ疑わしげに本を見つめていた。
「つまり、見かけはたしかに……ただの教科書」
「よかった。それじゃ返してもらうよ」
ハリーはパッとテーブルから本を取り上げたが、手が滑すべって床に落ち、本が開いた。
ほかには誰だれも見ていなかった。ハリーは屈かがんで本を拾ったが、その拍ひょう子しに、裏うら表びょう紙しの下のほうに何か書いてあるのが見えた。小さな読みにくい手書き文字だ。いまはハリーの寝室しんしつのトランクの中に、ソックスに包んで安全に隠かくしてある、あのフェリックス・フェリシスの瓶びんを獲得かくとくさせてくれた指示書きと同じ筆跡ひっせきだった。
半はん純じゅん血けつのプリンス蔵書ぞうしょ