「スネイプ先生とは、代わりに次の土曜日にきみが罰則を受けるように決めてある」
「はい」
ハリーは、スネイプの罰則より差し迫せまったことのほうが気になっていた。何か、ダンブルドアが今夜計画していることを示すようなものはないかと、気づかれないようにあたりを見回した。円形の校長室は、いつもと変わりないように見えた。繊細せんさいな銀の道具類が、細い脚あしのテーブルの上で、ポッポと煙を上げたり、くるくる渦巻うずまいたりしている。歴代校長の魔女や魔法使いの肖しょう像ぞう画がが、額がくの中で居眠りしている。ダンブルドアの豪華ごうかな不ふ死し鳥ちょう、フォークスはドアの内側の止まり木から、キラキラと興味深げにハリーを見ていた。ダンブルドアは、決けっ闘とう訓練の準備に場所を広く空けることさえしていないようだった。
「では、ハリー」
ダンブルドアは事務的な声で言った。
「きみはきっと、わしがこの――ほかに適切てきせつな言葉がないのでそう呼ぶが――授じゅ業ぎょうで、何を計画しておるかと、いろいろ考えたじゃろうの?」
「はい、先生」
「さて、わしは、その時が来たと判断したのじゃ。ヴォルデモート卿きょうが十五年前、何故なにゆえきみを殺そうとしたかを、きみが知ってしまった以上、何らかの情報をきみに与えるときが来たとな」
一いっ瞬しゅん、間が空いた。
「先学年の終わりに、僕にすべてを話すって言ったのに――」
ハリーは非難ひなんめいた口調を隠かくしきれなかった。
「そうおっしゃいました」ハリーは言い直した。
「そして、話したとも」ダンブルドアは穏おだやかに言った。
「わしが知っていることはすべて話した。これから先は、事実という確固かっことした土地を離れ、我々はともに、記憶という濁にごった沼地を通り、推測というもつれた茂みへの当てどない旅に出るのじゃ。ここからは、ハリー、わしは、チーズ製の大おお鍋なべを作る時期が熟じゅくしたと判断した、かのハンフリー・ベルチャーと同じぐらい、嘆なげかわしい間違いを犯しておるかも知れぬ」
「でも、先生は自分が間違っていないとお考えなのですね?」
「当然じゃ。しかし、すでにきみに証あかしたとおり、わしとてほかの者と同じように過あやまちを犯すことがある。事実、わしは大多数の者より――不遜ふそんな言い方じゃが――かなり賢かしこいので、過ちもまた、より大きなものになりがちじゃ」
「先生」
ハリーは遠えん慮りょがちに口を開いた。
「これからお話しくださるのは、予言と何か関係があるのですか? その話は僕に役に立つのでしょうか……生き残るのに?」
「大いに予言に関係することじゃ」
ダンブルドアは、ハリーが明日の天気を質問したかのように、気軽に答えた。
「そして、きみが生き残るのに役立つものであることを、わしはもちろん望んでおる」