二人は、田舎いなかの小道に立っていた。道の両側は絡からみ合った高い生垣いけがきに縁取ふちどられ、頭上には忘れな草のように鮮あざやかなブルーの夏空が広がっている。二人の二、三メートル先に、背の低い小太りの男が立っていた。牛ぎゅう乳にゅう瓶びんの底のような分厚いメガネのせいで、その奥の目がモグラの眼めのように小さな点になって見える。男は、道の左側のキイチゴの茂みから突き出ている木の案内板を読んでいた。これがオグデンに違いない。ほかには人影がないし、それに、不慣れな魔法使いがマグルらしく見せるために選びがちな、ちぐはぐな服装をしている。ワンピース型がたの縞しまの水着の上から燕えん尾び服ふくを羽は織おり、下にはスパッツを履はいている。しかし、ハリーが奇き妙みょうキテレツな服装を十分観察する間もなく、オグデンはきびきびと小道を歩き出した。
ダンブルドアとハリーはそのあとを追った。案内板を通り過ぎるときにハリーが見上げると、木片もくへんの一方はいま来た道を指して、「グレート・ハングルトン 8キロ」とあり、もう一方はオグデンの向かった方向を指して、「リトル・ハングルトン 1・6キロ」と標しるしてある。
短い道程みちのりだったが、その間は、生垣いけがきと頭上に広がる青空、そして燕えん尾び服ふくの裾すそを左右に振りながら前を歩いていく姿しか見えなかった。やがて小道が左に曲がり、急きゅう斜しゃ面めんの下り坂になった。突然目の前に、思いがけなく谷たに間あい全体の風景が広がった。リトル・ハングルトンに違いないと思われる村が見えた。二つの小高い丘の谷間に埋もれているその村の、教会も墓ぼ地ちも、ハリーにははっきり見えた。谷を越えた反対側の丘の斜面に、ビロードのような広い芝生しばふに囲まれた瀟しょう洒しゃな館やかたが建っている。
オグデンは、急な下り坂でやむなく小走りになった。ダンブルドアも歩幅ほはばを広げ、ハリーは急いでそれについて行った。ハリーは、リトル・ハングルトンが最終目的地だろうと思った。スラグホーンを見つけたあの夜もそうだったが、なぜ、こんな遠くから近づいていかなければならないのかが不思議だった。しかし、すぐに、その村に行くと予想したハリーが間違いだったことに気づいた。小道は右に折れ、二人がそこを曲がると、オグデンの燕尾服の端はしが生垣の隙間すきまから消えようとしているところだった。