開いた窓のそばの、部屋の隅すみのほうからあたふたと動く音がして、ハリーはこの部屋にもう一人誰だれかがいることに気づいた。若い女性だ。身にまとったボロボロの灰色の服が、背後の汚らしい石壁いしかべの色とまったく同じ色だ。煤すすで汚れたまっ黒な竈かまどで湯気を立てている深鍋ふかなべのそばに立ち、上の棚たなの汚らしい鍋釜なべかまをいじり回している。艶つやのない髪かみはダラリと垂たれ、器量よしとは言えず、蒼あお白じろくかなりぼってりした顔立ちをしている。兄と同じに、両眼が逆の方向を見ている。二人の男よりは小ざっぱりしていたが、ハリーは、こんなに打ちひしがれた顔は見たことがないと思った。
「娘だ。メローピー」
オグデンが物問ものといたげに女性を見ていたので、ゴーントがしぶしぶ言った。
「おはようございます」オグデンが挨あい拶さつした。
女性は答えず、おどおどした眼差しで父親をちらりと見るなり部屋に背を向け、棚の鍋釜をあちこちに動かし続けた。
「さて、ゴーントさん」オグデンが話しはじめた。
「単たん刀とう直ちょく入にゅうに申し上げますが、息子さんのモーフィンが、昨さく夜や半はんすぎ、マグルの面前で魔法をかけたと信じるに足る根拠こんきょがあります」
ガシャーンと耳を聾ろうする音がした。メローピーが深鍋を一つ落としたのだ。
「拾え!」ゴーントが怒ど鳴なった。
「そうだとも。穢けがらわしいマグルのように、そうやって床に這はいつくばって拾うがいい。何のための杖つえだ? 役立たずのクソッタレ!」
「ゴーントさん、そんな!」
オグデンはショックを受けたように声を上げた。メローピーはもう鍋なべを拾い上げていたが、顔をまだらに赤らめ、鍋をつかみ損そこねてまた取り落とし、震ふるえながらポケットから杖を取り出した。杖を鍋に向け、慌あわただしく何か聞き取れない呪じゅ文もんをブツブツ唱となえたが、鍋は床から反対方向に吹き飛んで、向かい側の壁かべにぶつかってまっ二つに割れた。