オグデンは急に言葉を切った。蹄ひづめの音、鈴の音ね、そして声高に笑う声が、開け放した窓から流れ込んできた。村に続く曲がりくねった小道が、どうやらこの家の木立こだちのすぐそばを通っているらしい。ゴーントはその場に凍こおりついたように、目を見開いて音を聞いていた。モーフィンはシュッシュッと舌を鳴らしながら、意地汚い表情で、音のするほうに顔を向けた。メローピーも顔を上げた。ハリーの目に、まっ青なメローピーの顔が見えた。
「おやまあ、何て目障めざわりなんでしょう!」
若い女性の声が、まるで同じ部屋の中で、すぐそばに立ってしゃべっているかのようにはっきりと、開けた窓から響ひびいてきた。
「ねえ、トム、あなたのお父さま、あんな掘ほっ建たて小屋、片付けてくださらないかしら?」
「僕たちのじゃないんだよ」若い男の声が言った。
「谷の反対側は全部僕たちの物だけど、この小屋は、ゴーントという碌ろくでなしのじいさんとその子供たちの物なんだ。息子は相当おかしくてね、村でどんな噂うわさがあるか聞いてごらんよ――」
若い女性が笑った。パカパカという蹄ひづめの音、シャンシャンという鈴の音ねがだんだん大きくなった。モーフィンが肘掛ひじかけ椅い子すから立ち上がりかけた。
「座ってろ」父親が蛇語へびごで、警告けいこくするように言った。
「ねえ、トム」また若い女性の声だ。
これだけ間近に聞こえるのは、二人が家のすぐ脇わきを通っているに違いない。
「あたくしの勘かん違ちがいかもしれないけど――あのドアに蛇が釘くぎづけになっていない?」
「何てことだ! 君の言うとおりだ!」男の声が言った。
「息子の仕業しわざだな。頭がおかしいって、言っただろう? セシリア、ねえダーリン、見ちゃだめだよ」
蹄の音も鈴の音も、こんどはだんだん弱くなってきた。
「ダーリン」モーフィンが妹を見ながら蛇語で囁ささやいた。
「『ダーリン』、あいつはそう呼んだ。だからあいつは、どうせ、おまえをもらっちゃくれない」
メローピーがあまりにまっ青さおなので、ハリーはきっと気絶すると思った。