「何のことだ?」
ゴーントは息子と娘を交互こうごに見ながら、やはり蛇語で、鋭するどい口調で聞いた。
「何て言った、モーフィン?」
「こいつは、あのマグルを見るのが好きだ」
いまや怯おびえきっている妹を、残酷ざんこくな表情で見つめながら、モーフィンが言った。
「あいつが通るときは、いつも庭にいて、生いけ垣がきの間から覗のぞいている。そうだろう? それに昨日の夜は――」
メローピーはすがるように、頭を強く横に振った。しかしモーフィンは情け容赦ようしゃなく続けた。
「窓から身を乗り出して、あいつが馬で家に帰るのを待っていた。そうだろう?」
「マグルを見るのに、窓から身を乗り出していただと?」ゴーントが低い声で言った。
ゴーント家の三人は、オグデンのことを忘れたかのようだった。オグデンは、またしても起こったシューシュー、ガラガラという音のやり取りを前に、わけがわからず当惑とうわくし、いらいらしていた。
「本当か?」
ゴーントは恐ろしい声でそう言うと、怯おびえている娘に一、二歩詰め寄った。
「俺おれの娘が――サラザール・スリザリンの純じゅん血けつの末裔まつえいが――穢けがれた泥の血のマグルに焦こがれているのか?」
メローピーは壁かべに体を押しつけ、激はげしく首を振った。口もきけない様子だ。
「だけど、父さん、俺がやっつけた!」モーフィンが高笑いした。
「あいつがそばを通ったとき、おれがやった。蕁じん麻ま疹しんだらけじゃ、色男も形無かたなしだった。メローピー、そうだろう?」
「このいやらしいスクイブめ! 血を裏切うらぎる汚けがらわしいやつめ!」
ゴーントが吠ほえ哮たけり、抑制よくせいがきかなくなって娘の首を両手で絞めた。
「やめろ!」
ハリーとオグデンが同時に叫さけんだ。オグデンは杖つえを上げ、「レラシオ! 放せ!」と叫んだ。ゴーントはのけ反るように吹き飛ばされて娘から離れ、椅い子すにぶつかって仰向あおむけに倒れた。怒り狂ったモーフィンが、喚わめきながら椅子から飛び出し、血なまぐさいナイフを振り回し、杖からめちゃくちゃに呪いを発射はっしゃしながら、オグデンに襲おそいかかった。
オグデンは命からがら逃げ出した。ダンブルドアが、跡あとを追わなければならないと告げ、ハリーはそれに従った。メローピーの悲鳴がハリーの耳にこだましていた。
オグデンは両腕で頭を抱え、矢のように路地を抜けて元の小道に飛び出した。そこでオグデンは艶つややかな栗毛くりげの馬に衝しょう突とつした。馬にはとてもハンサムな黒くろ髪かみの青年が乗っていた。青年も、その隣となりで葦毛あしげの馬に乗っていたきれいな若い女性も、オグデンの姿を見て大笑いした。オグデンは馬の脇腹わきばらにぶつかって撥はね飛ばされたが立ち直り、燕えん尾び服ふくの裾すそをはためかせ、頭のてっぺんから爪先つまさきまで埃ほこりだらけになりながら、ほうほうの体ていで小道を走っていった。
「ハリー、もうよいじゃろう」
ダンブルドアはハリーの肘ひじをつかんで、ぐいと引いた。次の瞬しゅん間かん、二人は無重力の暗くら闇やみの中を舞い上がり、やがて、もう夕暮の迫せまったダンブルドアの部屋に、正確せいかくに着地ちゃくちした。