ハーマイオニーはハグリッドの肩を叩たたきながら、どう声をかけていいやら途方とほうに暮れた顔だった。ハリーにはその気持がよくわかった。たしかにいろいろあった……ハグリッドが凶きょう暴ぼうな赤ちゃんドラゴンにテディベアをプレゼントしたり、針やら吸すい口くちを持った大サソリに小声で唄うたを歌ってやったり、異い父ふ弟ていの野蛮やばんな巨人を躾しつけようとしたり。しかし、そうしたハグリッドの怪物幻げん想そうの中でも、たぶんこんどのがいちばん不ふ可か解かいだ。あの口をきく大蜘ぐ蛛も、アラゴグ――禁じられた森の奥深くに棲すみ、四年前ハリーとロンが辛からくもその手を逃れた、あの大蜘蛛。
「何か――何か私たちにできることがあるかしら?」
ロンがとんでもないとばかり、しかめっ面で首をめちゃめちゃ横に振るのを無視して、ハーマイオニーが尋たずねた。
「何もねえだろうよ、ハーマイオニー」
滝のように流れる涙を止めようとして、ハグリッドが声を詰まらせた。
「あのな、眷属けんぞくのやつらがな……アラゴグの家族だ……あいつが病気だもんで、ちいとおかしくなっちょる……落ち着きがねえ……」
「ああ、僕たち、あいつらのそういうところを、ちょっと見たよな」ロンが小声で言った。
「……いまんとこ、俺以外のもんが、あのコロニーに近づくのは安全とは言えねえ」
ハグリッドは、エプロンでチーンと鼻をかみ、顔を上げた。
「そんでも、ありがとよ、ハーマイオニー……そう言ってくれるだけで……」
その後はだいぶ雰ふん囲い気きが軽くなった。ハリーもロンも、あのガルガンチュアのような危険極きわまりない肉食大蜘蛛に、大幼虫を持っていって食べさせてあげたいなどという素そ振ぶりは見せなかったのだが、ハグリッドは、当然二人にそういう気持があるものと思い込んだらしく、いつものハグリッドに戻もどったからだ。
「ウン、おまえさんたちの時間割に俺の授じゅ業ぎょうを突っ込むのは難むずかしかろうと、はじめっからわかっちょった」
三人に紅茶を注ぎ足しながら、ハグリッドがぶっきらぼうに言った。
「たとえ『逆ぎゃく転てん時ど計けい』を申し込んでもだ――」
「それはできなかったはずだわ」ハーマイオニーが言った。
「この夏、私たちが魔法省に行ったとき、『逆転時計』の在庫を全部壊こわしてしまったの。『日刊にっかん予よ言げん者しゃ新しん聞ぶん』に書いてあったわ」
「ンム、そんなら」ハグリッドが言った。
「どうやったって、できるはずはなかった……悪かったな。俺おれは……ほれ――俺はただ、アラゴグのことが心配しんぺいで……そんで、もしグラブリー‐プランク先生が教えとったらどうだったか、なんて考えっちまって――」