トンクスがどこからともなく現れた。くすんだ茶色の髪かみが霙みぞれで濡ぬれている。
「マンダンガスは、いまごろたぶんロンドンにいる。喚わめいてもむだだよ」
「あいつはシリウスの物を盗んだ! 盗んだんだ!」
「そうだね。だけど――」
トンクスは、この情報にまったく動じないように見えた。
「寒いところにいちゃだめだ」
トンクスは三人が「三本の箒ほうき」の入口を入るまで見張っていた。中に入るなり、ハリーは喚き出した。
「あいつはシリウスの物を盗んでいたんだ!」
「わかってるわよ、ハリー。だけどお願いだから大声出さないで。みんなが見てるわ」
ハーマイオニーが小声で言った。
「あそこに座って。飲み物を持ってきてあげる」
数分後、ハーマイオニーがバタービールを三本持ってテーブルに戻もどってきたときも、ハリーはまだいきり立っていた。
「騎き士し団だんはマンダンガスを抑えきれないのか?」
ハリーはかっかしながら小声で言った。
「せめて、あいつが本部にいるときだけでも、盗むのをやめさせられないのか? 固定されてない物なら何でも、片かたっ端ぱしから盗んでるのに」
「シーッ!」ハーマイオニーが周まわりを見回して、誰だれも聞いていないことを確かめながら、必死で制止せいしした。魔ま法ほう戦せん士しが二人近くに腰掛こしかけて、興味深そうにハリーを見つめていたし、ザビニはそう遠くないところで柱にもたれかかっていた。
「ハリー、私だって怒ると思うわ。あの人が盗んでいるのは、あなたの物だってことを知ってるし――」
ハリーはバタービールに咽むせた。自分がグリモールド・プレイス十二番地の所有者であることを、一時的に忘れていた。
「そうだ、あれは僕の物だ!」ハリーが言った。
「道理どうりであいつ、僕を見てまずいと思ったわけだ! うん、こういうことが起こっているって、ダンブルドアに言おう。マンダンガスが恐いのはダンブルドアだけだし」
「いい考えだわ」
ハーマイオニーが小声で言った。ハリーが静まってきたので、安堵あんどしたようだ。
「ロン、何を見つめてるの?」