ハリーは「憂うれいの篩ふるい」に屈かがみ込んだ。記憶のひやりとする表面に顔を突っ込み、再び暗くら闇やみの中を落ちていった……何秒か経ち、足が固い地面を打った。目を開けると、ダンブルドアと二人、賑にぎやかな古めかしいロンドンの街角まちかどに立っていた。
「わしじゃ」
ダンブルドアは朗ほがらかに前方を指差した。背の高い姿すがたが、牛乳を運ぶ馬車の前を横切よこぎってやって来る。
若いアルバス・ダンブルドアの長い髪かみと顎鬚あごひげは鳶色とびいろだった。道を横切ってハリーたちの側がわに来ると、ダンブルドアは悠々ゆうゆうと歩道を歩き出した。濃紫こむらさきのビロードの、派手なカットの背広を着た姿が、大勢の物もの珍めずらしげな人の目を集めていた。
「先生、すてきな背広だ」
ハリーが思わず口走った。しかしダンブルドアは、若き日の自分のあとについて歩きながら、クスクス笑っただけだった。三人は短い距離きょりを歩いた後、鉄の門を通り、殺さっ風ぷう景けいな中庭に入った。その奥に、高い鉄柵てっさくに囲まれたかなり陰気いんきな四角い建物がある。若きダンブルドアは石段を数段上がり、正面のドアを一回ノックした。しばらくして、エプロン姿のだらしない身なりの若い女性がドアを開けた。
「こんにちは。ミセス・コールとお約束があります。こちらの院長でいらっしゃいますな?」
「ああ」ダンブルドアの異様な格好かっこうをじろじろ観察しながら、当とう惑わく顔がおの女性が言った。
「あ……ちょっくら……ミセス・コール!」女性が振り向いて大声で呼んだ。
遠くのほうで、何か大声で答える声が聞こえた。女性はダンブルドアに向き直った。
「入へえんな。すぐ来るで」