ジンにかけては、ミセス・コールが初うぶではないことが、たちまち明らかになった。二つのグラスにたっぷりとジンを注ぎ、自分の分を一気に飲み干した。あけすけに唇くちびるを舐なめながら、ミセス・コールははじめてダンブルドアに笑顔を見せた。その機会を逃すダンブルドアではなかった。
「トム・リドルの生い立ちについて、何かお話しいただけませんでしょうか? この孤こ児じ院いんで生まれたのだと思いますが?」
「そうですよ」
ミセス・コールは自分のグラスにまたジンを注ついだ。
「あのことは、何よりはっきり憶おぼえていますとも。なにしろわたしが、ここで仕事を始めたばかりでしたからね。大おお晦日みそかの夜、そりゃ、あなた、身を切るような冷たい雪でしたよ。ひどい夜で。その女性は、当時のわたしとあまり変わらない年頃としごろで、玄げん関かんの石段をよろめきながら上がってきました。まあ、何も珍めずらしいことじゃありませんけどね。中に入れてやり、一時間後に赤ん坊が産まれました。それで、それから一時間後に、その人は亡くなりました」
ミセス・コールは大おお仰ぎょうに頷うなずくと、再びたっぷりのジンをぐい飲みした。
「亡くなる前に、その方は何か言いましたか?」ダンブルドアが聞いた。「たとえば、父親のことを何か?」
「まさにそれなんですよ。言いましたとも」
ジンを片手に、熱心な聞き手を得て、ミセス・コールは、いまやかなり興きょうに乗った様子だった。
「わたしにこう言いましたよ。『この子がパパに似ますように』。正直な話、その願いは正解でしたね。なにせ、その女性は美人とは言えませんでしてね――それから、その子の名前は、父親のトムと、自分の父親のマールヴォロを取ってつけてくれと言いました――ええ、わかってますとも、おかしな名前ですよね? わたしたちは、その女性がサーカス出身ではないかと思ったくらいでしたよ――それから、その男の子の姓せいはリドルだと言いました。そして、それ以上は一言も言わずに、まもなく亡くなりました」
「さて、わたしたちは言われたとおりの名前をつけました。あのかわいそうな女性にとっては、それがとても大切なことのようでしたからね。しかし、トムだろうが、マールヴォロだろうが、リドルの一族だろうが、誰だれもあの子を探しにきませんでしたし、親戚しんせきも来やしませんでした。それで、あの子はこの孤こ児じ院いんに残り、それからずっと、ここにいるんですよ」