「ビリー・スタッブズの兎うさぎ……まあ、トムはやっていないと、口ではそう言いましたし、わたしも、あの子がどうやってあんなことができたのかがわかりません。でも、兎が自分で天井の垂木たるきから首を吊つりますか?」
「そうは思いませんね。ええ」ダンブルドアが静かに言った。
「でも、あの子がどうやってあそこに上ってそれをやったのかが、判はんじ物ものでしてね。わたしが知っているのは、その前の日に、あの子とビリーが口論したことだけですよ。それから――」
ミセス・コールはまたジンをぐいとやった。こんどは顎あごにちょっぴり垂たれこぼした。
「夏の遠足のとき――ええ、一年に一回、子供たちを連れていくんですよ。田舎いなかとか海辺うみべに――それで、エイミー・ベンソンとデニス・ビショップは、それからずっと、どこかおかしくなりましてね。ところがその子たちから聞き出せたことといえば、トム・リドルと一いっ緒しょに洞どう窟くつに入ったということだけでした。トムは探検たんけんに行っただけだと言い張りましたが、何かがそこで起こったんですよ。間違いありません。それに、まあ、いろいろありました。おかしなことが……」
ミセス・コールはもう一度ダンブルドアを見た。頬は紅こう潮ちょうしていても、その視線しせんはしっかりしていた。
「あの子がいなくなっても、残念がる人は多くないでしょう」
「当然おわかりいただけると思いますが、トムを永久に学校に置いておくというわけではありませんが?」ダンブルドアが言った。
「ここに帰ってくることになります。少なくとも毎年夏休みに」
「ああ、ええ、それだけでも、錆さびた火ひ掻かき棒ぼうで鼻はなをぶん殴なぐられるよりはまし、というやつですよ」
ミセス・コールは小さくしゃっくりしながら言った。ジンの瓶びんは三分の二が空になっていたのに、立ち上がったときかなりシャンとしているので、ハリーは感心した。
「あの子にお会いになりたいのでしょうね?」
「ぜひ」ダンブルドアも立ち上がった。
ミセス・コールは事務所を出て石の階段へとダンブルドアを案内し、通りすがりにヘルパーや子供たちに指示を出したり、叱しかったりした。孤こ児じたちが、みんな同じ灰色のチュニックを着ているのを、ハリーは見た。まあまあ世話が行き届いているように見えたが、子供たちが育つ場所としては、ここが暗いところであるのは否定できなかった。