「またしても知らぬうちに時間が過ぎてしもうた」
窓から見えるまっ暗な空を示しながら、ダンブルドアが言った。
「しかしながら、別れる前に、我々が見た場面のいくつかの特とく徴ちょうについて、注意を促うながしておきたい。将来の授じゅ業ぎょうで話し合う事柄ことがらに、大いに関係するからじゃ」
「第一に、ほかにも『トム』という名を持つ者がおると、わしが言ったときの、リドルの反応に気づいたことじゃろうな?」
ハリーは頷うなずいた。
「自分とほかの者を結びつけるものに対して、リドルは軽蔑けいべつを示した。自分を凡庸ぼんようにするものに対してじゃ。あのときでさえあの者は、違うもの、別なもの、悪名あくめい高きものになりたがっていた。あの会話からほんの数年のうちに、知ってのとおり、あの者は自分の名前を棄すてて『ヴォルデモート卿きょう』の仮面を創つくり出し、いまに至るまでの長い年月、その陰かげに隠かくれてきた」
「きみは間違いなく気づいたと思うが、トム・リドルはすでに、非常に自じ己こ充じゅう足そく的てきで、秘密主義で、また友人を持っていないことが明らかじゃったの? ダイアゴン横よこ丁ちょうに行くのに、あの者は手助けも付つき添そいも欲ほっしなかった。自分ひとりでやることを好んだ。成人したヴォルデモートも同じじゃ。死し喰くい人びとの多くが、自分はヴォルデモート卿きょうの信用を得ているとか、自分だけが近しいとか、理解しているとまで主しゅ張ちょうする。その者たちは欺あざむかれておる。ヴォルデモート卿は友人を持ったことがないし、また持ちたいと思ったこともないと、わしはそう思う」
「最後に――ハリー、眠いじゃろうが、このことにはしっかり注意してほしい――若き日のトム・リドルは、戦せん利り品ひんを集めるのが好きじゃった。部屋に隠かくしていた盗品とうひんの箱を見たじゃろう。いじめの犠ぎ牲せい者しゃから取り上げた物じゃ。ことさらに不快な魔法を行使こうしした、いわば記念品と言える。このカササギのごとき蒐しゅう集しゅう傾けい向こうを覚えておくがよい。これが、特に後になって重要になるからじゃ」
「さて、こんどこそ就しゅう寝しんの時間じゃ」
ハリーは立ち上がった。歩きながら、前回、マールヴォロ・ゴーントの指輪ゆびわが置いてあった小さなテーブルが目に止まったが、指輪はもうなかった。
「ハリー、何じゃ?」
ハリーが立ち止まったので、ダンブルドアが聞いた。
「指輪ゆびわがなくなっています」ハリーは振り向いて言った。
「でも、ハーモニカとか、そういう物をお持ちなのではないかと思ったのですが」
ダンブルドアは半月メガネの上からハリーを覗のぞいて、にっこりした。
「なかなか鋭するどいのう、ハリー。しかし、ハーモニカはあくまでもハーモニカじゃった」
この謎なぞのような言葉とともに、ダンブルドアはハリーに手を振った。ハリーは、もう帰りなさいと言われたのだと理解した。