「何の話か、あなたにははっきりわかっているはずよ!」
ハーマイオニーが甲高かんだかい声を上げた。
「朝食のとき、ロンのジュースに幸運の薬を入れたでしょう!『フェリックス・フェリシス』よ!」
「入れてない」ハリーは二人に向き直った。
「入れたわ、ハリー。それだから何もかもラッキーだったのよ。スリザリンの選手は欠場するし、ロンは全部セーブするし!」
「僕は入れてない!」
ハリーは、こんどは大きくにやりと笑った。上着のポケットに手を入れ、ハリーは、今け朝さハーマイオニーが自分の手中にあるのを目もく撃げきしたはずの、小さな瓶びんを取り出した。金色の水みず薬ぐすりがたっぷりと入っていて、コルク栓せんはしっかり蝋ろうづけしたままだった。
「僕が入れたと、ロンに思わせたかったんだ。だから、君が見ているときを見計みはからって、入れるふりをした」
ハリーはロンを見た。
「ラッキーだと思い込んで、君は全部セーブした。すべて君自身がやったことなんだ」
ハリーは薬をポケットに戻もどした。
「僕のかぼちゃジュースには、本当に何も入ってなかったのか?」ロンが唖然あぜんとして言った。
「だけど天気はよかったし……それにベイジーはプレイできなかったし……僕、ほんとのほんとに、幸運薬を盛もられなかったの?」
ハリーは入れていないと首を振った。ロンは一いっ瞬しゅんポカンと口を開け、それからハーマイオニーを振り返って声色こわいろをまねた。
「ロンのジュースに、今朝『フェリックス・フェリシス』を入れたでしょう。それだから、ロンは全部セーブしたのよ! どうだ! ハーマイオニー、助けなんかなくたって、僕はゴールを守れるんだ!」
「あなたができないなんて、一度も言ってないわ――ロン、あなただって、薬を入れられたと思ったじゃない!」
しかしロンはもう、ハーマイオニーの前を大股おおまたで通り過ぎ、箒ほうきを担かついで出ていってしまった。
「えーと」
突然訪おとずれた沈ちん黙もくの中で、ハリーが言った。こんなふうに裏目うらめに出るとは思いもよらなかった。
「じゃ……それじゃ、パーティに行こうか?」
「行けばいいわ!」
ハーマイオニーは瞬まばたきして涙なみだをこらえながら言った。
「ロンなんて、私、もううんざり。私がいったい何をしたって言うの……」
そしてハーマイオニーも、嵐のように更こう衣い室しつから出ていった。
ハリーは人混みの中を重い足取りで城に向かった。校庭を行く大勢の人が、ハリーに祝しゅく福ふくの言葉をかけた。しかし、ハリーは虚きょ脱だつ感かんに襲おそわれていた。ロンが試合に勝てば、ハーマイオニーとの仲はたちまち戻もどるだろうと信じきっていた。ハーマイオニーは、いったい何をしたかと聞いたが、ビクトール・クラムとキスしたからロンが怒っているのだと、どうやって説明すればいいのか見当もつかなかった。なにしろその罪を犯したのは、ずっと昔のことなのだ。