ハーマイオニーは時間割がぎっしり詰まっていたので、いずれにせよハリーは、夜にならないとハーマイオニーとまともに話ができる状じょう態たいではなかった。ロンは、夜になるとラベンダーに固く巻きついていたので、ハリーが何をしているかにも気づいていなかった。ハーマイオニーは、ロンが談だん話わ室しつにいるかぎり、そこにいることを拒否きょひしていたので、ハリーはだいたい図書室でハーマイオニーに会った。ということは、二人がひそひそ話をするということでもあった。
「誰とキスしようが、まったく自由よ」
司書ししょのマダム・ピンスが背後の本棚ほんだなをうろついているときに、ハーマイオニーが声をひそめて言った。
「まったく気にしないわ」
ハーマイオニーが羽根ペンを取り上げて、強きょう烈れつに句点くてんを打ったので、羊よう皮ひ紙しに穴が空いた。ハリーは何も言わなかった。あまりにも声を使わないので、そのうち声が出なくなるのではないかと思った。「上じょう級きゅう魔ま法ほう薬やく」の本にいっそう顔を近づけ、ハリーは「万年まんねん万ばん能のう薬やく」についてのノートを取り続け、ときどきペンを止めては、リバチウス・ボラージの文章に書き加えられている、プリンスの有用な追つい加か情じょう報ほうを判読はんどくした。
「ところで」しばらくして、ハーマイオニーがまた言った。
「気をつけないといけないわよ」
「最後にもう一回だけ言うけど」
四十五分もの沈ちん黙もくのあとで、ハリーの声は少しかすれていた。
「この本を返すつもりはない。プリンスから学んだことのほうが、スネイプやスラグホーンからこれまで教わってきたことより――」
「私、そのばからしいプリンスとかいう人のことを、言ってるんじゃないわ」
ハーマイオニーは、その本に無礼ぶれいなことを言われたかのように、険悪けんあくな目つきで教科書を見た。
「ちょっと前に起こったことを話そうとしてたのよ。ここに来る前に女子トイレに行ったら、そこに十人ぐらい女子が集まっていたの。あのロミルダ・ベインもいたわ。あなたに気づかれずに惚ほれ薬ぐすりを盛もる方法を話していたの。全員が、あなたにスラグホーン・パーティに連れていってほしいと思っていて、みんながフレッドとジョージの店から『愛あいの妙みょう薬やく』を買ったみたい。それ、たぶん効きくと思うわ――」
「なら、どうして取り上げなかったんだ?」ハリーが詰め寄った。
ここいちばんという肝心かんじんなときに、規則きそく遵じゅん守しゅ熱ねつがハーマイオニーを見捨てたのは尋じん常じょうではないと思われた。
「あの人たち、トイレでは薬を持っていなかったの」ハーマイオニーが蔑さげすむように言った。
「戦せん術じゅつを話し合っていただけ。さすがの『プリンス』も――」
ハーマイオニーはまたしても険悪な目つきで本を見た。
「十種類以上の惚れ薬が一度に使われたら、その解げ毒どく剤ざいをでっち上げることなど夢にも思いつかないでしょうから、私なら一いっ緒しょに行く人を誰だれか誘さそうわね――そうすればほかの人たちは、まだチャンスがあるなんて考えなくなるでしょう――明日の夜よ。みんな必死になっているわ」
「誰も招まねきたい人がいない」ハリーが呟つぶやいた。
ハリーはいまでも、避さけうるかぎりジニーのことは考えまいとしていた。その実、ジニーはしょっちゅうハリーの夢に現れていた。夢の内容からして、ロンが「開かい心しん術じゅつ」を使うことができないのは、心底しんそこありがたかった。
「まあ、とにかく飲み物には気をつけなさい。ロミルダ・ベインは本気みたいだったから」
ハーマイオニーが厳きびしく言った。