突然ハーマイオニーは話を打ち切った。ハリーにも聞こえた。誰だれかが、二人のすぐ後ろの暗い本棚ほんだなの間で動いたのだ。二人がじっとしていると、間もなく物陰ものかげから、ハゲタカのような容よう貌ぼうのマダム・ピンスが現れた。落おち窪くぼんだ頬ほおに羊よう皮ひ紙しのような肌はだ、そして高い鉤鼻かぎばなが、手にしたランプで情け容赦ようしゃなく照らし出されていた。
「図書室の閉館へいかん時間です」マダム・ピンスが言った。「借りた本はすべて返すように。元の棚に――この不ふ心こころ得え者もの! その本に何をしでかしたんです?」
「図書室の本じゃありません。僕のです!」
慌あわててそう言いながら、ハリーは机つくえに置いてあった「上級魔法薬」の本をひっ込めようとしたが、マダム・ピンスが鉤爪かぎづめのような手で本につかみかかってきた。
「荒らした!」マダム・ピンスが唸うなるように言った。
「穢けがした! 汚よごした!」
「教科書に書き込みしてあるだけです!」ハリーは本を引っぱり返して取り戻もどした。
マダム・ピンスは発作ほっさを起こしそうだった。ハーマイオニーは急いで荷物をまとめ、ハリーの腕をがっちりつかんで無理やり連れ出した。
「気をつけないと、あの人、あなたを図書室出入り禁止にするわよ。どうしてそんな愚おろかしい本を持ち込む必要があったの?」
「ハーマイオニー、あいつが狂ってるのは僕のせいじゃない。それともあいつ、君がフィルチの悪口を言ったのを盗み聞きしたのかな? あいつらの間に何かあるんじゃないかって、僕、前々から疑ってたんだけど――」
「まあ、ハ、ハ、ハだわ……」
あたりまえに話せるようになったのが楽しくて、二人はランプに照らされた人気ひとけのない廊下ろうかを談だん話わ室しつに向かって歩きながら、フィルチとマダム・ピンスが果たして密かに愛し合っているかどうかを議論ぎろんした。
「ボーブル玉飾たまかざり」
ハリーは「太ふとった婦人レディ」に向かって、クリスマス用の新しい合あい言葉ことばを言った。
「クリスマスおめでとう」
「太ふとった婦人レディ」は悪戯いたずらっぽく笑い、パッと開いて二人を入れた。