やっと追いついたときは、ハーマイオニーが下の階の女子トイレから出てくるところだった。ルーナ・ラブグッドが、その背中を叩たたくともなく叩きながら付つき添そっていた。
「ああ、ハリー、こんにちは」ルーナが言った。「あんたの片方の眉、まっ黄色になってるって知ってた?」
「やあ、ルーナ。ハーマイオニー、これ、忘れていったよ……」
ハリーは、ハーマイオニーの本を数冊差し出した。
「ああ、そうね」
ハーマイオニーは声を詰まらせながら受け取り、急いで横を向いて、羽根ペン入れで目を拭ぬぐっていたことを隠かくそうとした。
「ありがとう、ハリー。私、もう行かなくちゃ……」
ハリーが慰なぐさめの言葉をかける間も与えず、ハーマイオニーは急いで去っていった。もっとも、ハリーはかける言葉も思いつかなかった。
「ちょっと落ち込んでるみたいだよ」ルーナが言った。「最初は『嘆なげきのマートル』がいるのかと思ったんだけど、ハーマイオニーだったもン。ロン・ウィーズリーのことを何だか言ってた……」
「ああ、けんかしたんだよ」ハリーが言った。
「ロンて、ときどき、とってもおもしろいことを言うよね?」
二人で廊下ろうかを歩きながら、ルーナが言った。
「だけど、あの人、ちょっと酷むごいとこがあるな。あたし、去年気がついたもン」
「そうだね」ハリーが言った。
ルーナは言いにくい真実をずばりと言う、いつもの才能を発揮はっきした。ハリーは、ほかにルーナのような人に会ったことがなかった。
「ところで、今学期は楽しかった?」
「うん、まあまあだよ」ルーナが言った。
「DディーAエイがなくて、ちょっと寂さびしかった。でも、ジニーがよくしてくれたもン。この間、変へん身しん術じゅつのクラスで、男子が二人、あたしのことを『おかしなルーニー』って呼んだとき、ジニーがやめさせてくれた――」
「今晩こんばん、僕と一いっ緒しょにスラグホーンのパーティに来ないか?」
止める間もなく、言葉が口を衝ついて出た。他人がしゃべっているかのように、ハリーは自分の言葉を聞いた。
ルーナは驚いて、飛び出した目をハリーに向けた。
「スラグホーンのパーティ? あんたと?」
「うん」ハリーが言った。「客を連れていくことになってるんだ。それで君さえよければ……つまり……」
ハリーは、自分がどういうつもりなのかをはっきりさせておきたかった。
「つまり、単なる友達として、だけど。でも、もし気が進まないなら……」
ハリーはすでに、ルーナが行きたくないと言ってくれることを半分期待していた。
「ううん、一いっ緒しょに行きたい。友達として!」
ルーナは、これまでに見せたことのない笑顔でにっこりした。
「いままでだぁれも、パーティに誘さそってくれた人なんかいないもン。友達として! あんた、だから眉まゆを染そめたの? パーティ用に? あたしもそうするべきかな?」
「いや」ハリーがきっぱりと言った。「これは失敗したんだ。ハーマイオニーに頼んで直してもらうよ。じゃ、玄げん関かんホールで八時に落ち合おう」