その晩ばん、八時にハリーが玄げん関かんホールに行くと、尋じん常じょうでない数の女子生徒がうろうろしていて、ハリーがルーナに近づくのを恨うらみがましく見つめていた。ルーナはスパンコールのついた銀色のローブを着ていて、見物人の何人かがそれをクスクス笑っていた。しかし、そのほかは、ルーナはなかなか素敵すてきだった。とにかくハリーは、ルーナがオレンジ色の蕪かぶのイヤリングを着けてもいないし、バタービールのコルク栓せんをつないだネックレスも「めらめらメガネ」もかけていないことがうれしかった。
「やあ」ハリーが声をかけた。「それじゃ、行こうか?」
「うん」ルーナがうれしそうに言った。「パーティはどこなの?」
「スラグホーンの部屋だよ」
ハリーは、見つめたり陰口かげぐちを聞いたりする群れから離れ、大理だいり石せきの階段を先に立って上りながら続けた。
「吸きゅう血けつ鬼きが来る予定だって、君、聞いてる?」
「ルーファス・スクリムジョール?」ルーナが聞き返した。
「僕……えっ?」ハリーは面食めんくらった。「魔法大臣のこと?」
「そう。あの人、吸血鬼なんだ」ルーナはあたりまえという顔で言った。
「スクリムジョールがコーネリウス・ファッジに代わったときに、パパがとっても長い記事を書いたんだけど、魔法省の誰だれかが手を回して、パパに発行させないようにしたんだもン。もちろん、本当のことが漏もれるのがいやだったんだよ!」
ルーファス・スクリムジョールが吸血鬼というのは、まったくありえないと思ったが、ハリーは何も反論しなかった。父親の奇き妙みょうな見解けんかいを、ルーナが事実と信じて受け売りするのに慣なれっこになっていたからだ。二人はすでに、スラグホーンの部屋のそばまで来ていた。笑い声や音楽、賑にぎやかな話し声が、一足ごとにだんだん大きくなってきた。
はじめからそうなっていたのか、それともスラグホーンが魔法でそう見せかけているのか、その部屋はほかの先生の部屋よりずっと広かった。天井と壁かべはエメラルド、紅くれない、そして金色の垂たれ幕まくの襞飾ひだかざりで優美ゆうびに覆おおわれ、全員が大きなテントの中にいるような感じがした。中は混み合ってむんむんしていた。
天井の中央から凝こった装そう飾しょくを施ほどこした金色のランプが下がり、中には本物の妖よう精せいが、それぞれに煌きらびやかな光を放はなちながらパタパタ飛び回っていて、ランプの赤い光が部屋中を満たしていた。マンドリンのような音に合わせて歌う大きな歌声が、部屋の隅すみのほうから流れ、年長の魔ま法ほう戦せん士しが数人話し込んでいるところには、パイプの煙が漂ただよっていた。
何人かの屋敷やしきしもべ妖よう精せいが、キーキー言いながら客の膝下ひざしたあたりで動き回っていたが、食べ物を載のせた重そうな銀の盆の下に隠かくされてしまい、まるで小さなテーブルがひとりで動いているように見えた。