酩めい酊てい気ぎ味みのトレローニー先生には、ハリーの顔も見分けられないようだった。フィレンツェへの激烈げきれつな批判ひはんを煙幕えんまくにして、ハリーはハーマイオニーに顔を近づけて話した。
「はっきりさせておきたいことがある。キーパーの選抜せんばつに君が干かん渉しょうしたこと、ロンに話すつもりか?」
ハーマイオニーは眉まゆを吊つり上げた。
「私がそこまで卑いやしくなると思うの?」
ハリーは見み透すかすようにハーマイオニーを見た。
「ハーマイオニー、マクラーゲンを誘さそうことができるくらいなら――」
「それとこれとは別です」ハーマイオニーは重々しく言った。
「キーパーの選抜に何が起こりえたか、起こりえなかったか、ロンにはいっさい言うつもりはないわ」
「そんならいい」ハリーが力強く言った。「なにしろ、もしロンがまたボロボロになったら、次の試合は負ける――」
「クィディッチ!」ハーマイオニーの声が怒っていた。「男の子って、それしか頭にないの? コーマックは私のことを一度も聞かなかったわ。ただの一度も。私がお聞かせいただいたのは、『コーマック・マクラーゲンのすばらしいセーブ百ひゃく選せん』連続ノンストップ。ずーっとよ――あ、いや、こっちに来るわ!」
ハーマイオニーの動きの速さと来たら、「姿すがたくらまし」したかのようだった。ここと思えばまたあちら、次の瞬しゅん間かん、ばか笑いしている二人の魔女の間に割り込んで、さっと消えてしまった。
「ハーマイオニーを見なかったか?」
一分後に、人混みを掻かき分けてやって来たマクラーゲンが聞いた。
「いいや」そう言うなり、ハリーはルーナが誰だれと話していたかを一いっ瞬しゅん忘れて、慌あわててルーナの会話に加わった。
「ハリー・ポッター!」
初めてハリーの存在そんざいに気づいたトレローニー先生が、深いビブラートのかかった声で言った。
「あ、こんばんは」ハリーは気のない挨あい拶さつをした。
「まあ、あなた!」
よく聞こえる囁ささやき声で、先生が言った。
「あの噂うわさ! あの話! 『選ばれし者』! もちろん、あたくしには前々からわかっていたことです……ハリー、予よ兆ちょうがよかったためしがありませんでした……でも、どうして『占うらない学がく』を取らなかったのかしら? あなたこそ、ほかの誰よりも、この科目がもっとも重要ですわ!」
「ああ、シビル、我々はみんな、自分の科目こそ最重要と思うものだ!」
大きな声がして、トレローニー先生の横にスラグホーン先生が現れた。まっ赤な顔にビロードの帽子ぼうしを斜めにかぶり、片手に蜂はち蜜みつ酒しゅ、もう一方の手に大きなミンスパイを持っている。
「しかし、『魔ま法ほう薬やく学がく』でこんなに天分てんぶんのある生徒は、ほかに思い当たらないね!」
スラグホーンは、酔よって血走ってはいたが、愛いとおしげな眼差しでハリーを見た。
「なにしろ、直ちょっ感かん的てきで――母親と同じだ! これほどの才能の持ち主は、数えるほどしか教えたことがない。いや、まったくだよ、シビル――このセブルスでさえ――」