「スラグホーン先生」
顎あごを震ふるわせ、飛び出した目に悪戯いたずら発見の異常な情じょう熱ねつの光を宿したフィルチが、ゼイゼイ声で言った。
「こいつが上の階の廊下ろうかをうろついているところを見つけました。先生のパーティに招まねかれたのに、出かけるのが遅れたと主張しています。こいつに招しょう待たい状じょうをお出しになりましたですか?」
マルフォイは、憤慨ふんがいした顔でフィルチの手を振り解いた。
「ああ、僕は招かれていないとも!」マルフォイが怒ったように言った。「勝手に押しかけようとしていたんだ。これで満足したか?」
「何が満足なものか!」
言葉とはちぐはぐに、フィルチの顔には歓喜かんきの色が浮かんでいた。
「おまえは大変なことになるぞ。そうだとも! 校長先生がおっしゃらなかったかな? 許可なく夜間にうろつくなと。え、どうだ?」
「かまわんよ、フィルチ、かまわん」スラグホーンが手を振りながら言った。
「クリスマスだ。パーティに来たいというのは罪つみではない。今回だけ、罰ばっすることは忘れよう。ドラコ、ここにいてよろしい」
フィルチの憤慨と失望の表情は、完全に予想できたことだ。しかし、マルフォイを見て、なぜ、とハリーは訝いぶかった。なぜマルフォイもほとんど同じくらい失望したように見えるのだろう? それに、マルフォイを見るスネイプの顔が、怒っていると同時に、それに……そんなことがありうるのだろうか?……少し恐れているのはなぜだろう?
しかし、ハリーが目で見たことを心に十分刻きざむ間もなく、フィルチは小声で何か呟つぶやきながら、踵きびすを返してベタベタと歩き去り、マルフォイは笑顔を作ってスラグホーンの寛大かんだいさに感かん謝しゃしていたし、スネイプの顔は再び不ふ可か解かいな無表情に戻もどっていた。
「何でもない、何でもない」スラグホーンは、マルフォイの感謝を手を振っていなした。
「どの道、君のお祖じ父いさんを知っていたのだし……」
「祖そ父ふはいつも先生のことを高く評ひょう価かしていました」マルフォイがすばやく言った。
「魔法薬にかけては、自分が知っている中で一番だと……」
ハリーはマルフォイをまじまじと見た。何もおべんちゃらに関心を持ったからではない。マルフォイが、スネイプに対しても同じことをするのをずっと見てきたハリーだ。ただ、よく見ると、マルフォイは本当に病気ではないかと思えたのだ。マルフォイをこんなに間近で見たのはしばらくぶりだった。目の下に黒い隈くまができているし、明らかに顔色が優すぐれない。
「話がある、ドラコ」突然スネイプが言った。
「まあ、まあ、セブルス」スラグホーンがまたしゃっくりした。
「クリスマスだ。あまり厳きびしくせず……」
「我わが輩はいは寮りょう監かんでね。どの程度厳しくするかは、我輩が決めることだ」
スネイプが素そっ気けなく言った。
「ついて来い、ドラコ」
スネイプが先に立ち、二人が去った。マルフォイは恨うらみがましい顔だった。ハリーは一いっ瞬しゅん、心を決めかねて動けなかったが、それからルーナに言った。
「すぐ戻るから、ルーナ――えーと――トイレ」
「いいよ」ルーナが朗ほがらかに言った。
急いで人混みを掻かき分けながらハリーは、ルーナがトレローニー先生にロットファングの陰いん謀ぼう話ばなしを語り続けるのを、聞いたような気がした。先生はこの話題に真剣しんけんに興味を持ったようだった。