パーティからいったん離れてしまえば、廊下ろうかはまったく人気ひとけがなかったので、ポケットから「透とう明めいマント」を出して身につけるのはたやすいことだった。むしろスネイプとマルフォイを見つけるほうが難むずかしかった。
ハリーは廊下を走った。足音は、背後のスラグホーンの部屋から流れてくる音楽や、声高こわだかな話し声に掻き消された。スネイプは、地下にある自分の部屋にマルフォイを連つれていったのかもしれない……それともスリザリンの談だん話わ室しつまで付つき添そっていったのか……いずれにせよ、ハリーは、ドアというドアに耳を押しつけながら廊下を疾走しっそうした。
廊下のいちばん端はしの教室に着いて鍵穴かぎあなに屈かがみ込んだとき、中から話し声が聞こえたのには心が躍おどった。
「……ミスは許されないぞ、ドラコ。なぜなら、君が退学になれば――」
「僕はあれにはいっさい関係ない、わかったか?」
「君が我わが輩はいに本当のことを話しているのならいいのだが。なにしろあれは、お粗末そまつで愚おろかしいものだった。すでに君が関わっているという嫌疑けんぎがかかっている」
「誰だれが疑っているんだ?」マルフォイが怒ったように言った。
「もう一度だけ言う。僕はやってない。いいか? あのベルのやつ、誰も知らない敵てきがいるに違いない――そんな目で僕を見るな! おまえがいま何をしているのか、僕にはわかっている。ばかじゃないんだから。だけどその手は効きかない――僕はおまえを阻そ止しできるんだ!」
一いっ瞬しゅん黙だまった後、スネイプが静かに言った。
「ああ……ベラトリックスおばさんが君に『閉へい心しん術じゅつ』を教えているのか、なるほど。ドラコ、君は自分の主君しゅくんに対して、どんな考えを隠かくそうとしているのかね?」
「僕はあの人に対して何も隠そうとしちゃいない。ただおまえがしゃしゃり出てくるのがいやなんだ!」
ハリーは一段と強く鍵穴かぎあなに耳を押しつけた……これまで常に尊敬そんけいを示し、好意まで示していたスネイプに対して、マルフォイがこんな口のきき方をするなんて、いったい何があったんだろう?
「なれば、そういう理由で今学期は我輩を避さけてきたというわけか? 我輩が干かん渉しょうするのを恐れてか? わかっているだろうが、我輩の部屋に来るようにと何度言われても来なかった者は、ドラコ――」
「罰則ばっそくにすればいいだろう! ダンブルドアに言いつければいい!」マルフォイが嘲あざけった。
また沈ちん黙もくが流れた。そしてスネイプが言った。
「君にはよくわかっていることと思うが、我輩はそのどちらもするつもりはない」
「それなら、自分の部屋に呼びつけるのはやめたほうがいい!」