「よく聞け」
スネイプの声が非常に低くなり、耳をますます強く鍵穴に押しつけないと聞こえなかった。
「我輩は君を助けようとしているのだ。君を護まもると、君の母親に誓ちかった。ドラコ、我輩は『破やぶれぬ誓ちかい』をした――」
「それじゃ、それを破らないといけないみたいだな。なにしろ僕は、おまえの保ほ護ごなんかいらない! 僕の仕事だ。あの人が僕に与えたんだ。僕がやる。計けい略りゃくがあるし、上手くいくんだ。ただ、考えていたより時間がかかっているだけだ!」
「どういう計略だ?」
「おまえの知ったことじゃない!」
「何をしようとしているのか話してくれれば、我輩が手助けすることも――」
「必要な手助けは全部ある。余計よけいなお世話だ。僕は一人じゃない!」
「今夜は明らかに一人だったな。見張りも援軍えんぐんもなしに廊下ろうかをうろつくとは、愚ぐの骨こっ頂ちょうだ。そういうのは初歩的なミスだ――」
「おまえがクラッブとゴイルに罰則ばっそくを課かさなければ、僕と一いっ緒しょにいるはずだった!」
「声を落とせ!」
スネイプが吐はき棄すてるように言った。マルフォイは興こう奮ふんして声が高くなっていた。
「君の友達のクラッブとゴイルが『闇やみの魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ』のO・W・Lふくろうにこんどこそパスするつもりなら、現在より多少まじめに勉強する必要が――」
「それがどうした?」マルフォイが言った。「『闇の魔術に対する防衛術』――そんなもの全部茶番ちゃばんじゃないか。見せかけの芝居しばいだろう? まるで我々が闇の魔術から身を護る必要があるみたいに――」
「成功のためには不ふ可か欠けつな芝居だぞ、ドラコ!」スネイプが言った。
「我わが輩はいが演えんじ方を心得ていなかったら、この長ながの年月、我輩がどんなに大変なことになっていたと思うのだ? よく聞け! 君は慎しん重ちょうさを欠き、夜間にうろついて捕まった。クラッブやゴイルごときの援助えんじょを頼りにしているなら――」
「あいつらだけじゃない。僕にはほかの者もついている。もっと上等なのが!」
「なれば、我輩を信用するのだ。さすれば我輩が――」
「おまえが何を狙ねらっているか、知っているぞ! 僕の栄光えいこうを横取りしたいんだ!」
三度目の沈ちん黙もくのあと、スネイプが冷ややかに言った。
「君は子供のようなことを言う。父親が逮捕たいほされ収しゅう監かんされたことが、君を動揺どうようさせたことはわかる。しかし――」
ハリーは不ふ意いを衝つかれた。マルフォイの足音がドアの向こう側に聞こえ、ハリーは飛びのいた。そのとたんにドアがパッと開いた。マルフォイが荒々しく廊下ろうかに出て、大股おおまたにスラグホーンの部屋の前を通り過ぎ、廊下の向こう端はしを曲がって見えなくなった。
スネイプがゆっくりと中から現れた。ハリーはうずくまったまま、息をつくことさえためらっていた。底のうかがい知れない表情で、スネイプはパーティに戻もどっていった。ハリーは「マント」に隠かくれてその場に座り込み、激はげしく考えをめぐらしていた。