しかし、この声はハリーの想像にすぎなかった。ハーマイオニーには、立ち聞きの内容を教える機会がなかったのだから。ハリーがスラグホーンのパーティに戻もどったときには、ハーマイオニーはとっくにそこから消えていたということを、怒ったマクラーゲンから聞かされた。談話だんわ室しつにハリーが帰ったときには、ハーマイオニーはもう寮りょうの寝室しんしつに戻ってしまっていた。翌日よくじつの朝早くロンと二人で「隠かくれ穴あな」に出発するときも、ハーマイオニーに「メリー・クリスマス」と声をかけ、休きゅう暇かから戻ったら重要なニュースがあると告げるのがやっとだった。それでさえ、ハーマイオニーに聞こえていたかどうか、定さだかにはわからなかった。ちょうどそのときハリーの後ろで、ロンとラベンダーが完全に無言むごんのさよならを交わしていたからだ。
それでも、ハーマイオニーでさえ否定ひていできないことが一つある。マルフォイは絶対に何か企んでいる。そしてスネイプはそれを知っている。だから、ロンにはもう何度も言った台詞せりふだが、ハリーは、「僕の言ったとおりだろ」と当然言えると思った。
ハリーが、魔法省で長時間仕事をしていたウィーズリーおじさんと話をする機会もないまま、クリスマス・イブがやって来た。ジニーが豪勢ごうせいに飾かざり立てて、紙かみ鎖ぐさりが爆発したような賑にぎやかな居い間まに、ウィーズリー一家と来客たちが座っていた。フレッド、ジョージ、ハリー、ロンの四人だけが、クリスマスツリーのてっぺんに飾られた天使の正体を知っていた。実は、クリスマス・ディナー用のにんじんを引き抜いていたフレッドの踵かかとに咬かみついた、庭にわ小こ人びとなのだ。失しっ神しん呪じゅ文もんをかけられて金色に塗ぬられた上、ミニチュアのチュチュに押し込まれ、背中に小さな羽根を接せっ着ちゃくされて上から全員を睨にらみつけていたが、ジャガイモのようなでかい禿はげ頭にかなり毛深い足の姿は、ハリーがこれまで見た中でもっとも醜みにくい天使だった。
大きな木製のラジオから、クリスマス番組で歌う、ウィーズリーおばさんご贔屓ひいきの歌手、セレスティナ・ワーベックのわななくような歌声が流れていた。全員がそれを聞いているはずだったが、フラーはセレスティナの歌が退屈たいくつだと思ったらしく、隅すみのほうで大声で話していた。ウィーズリーおばさんは、苦々にがにがしい顔で何度も杖つえをボリュームのつまみに向け、セレスティナの歌声はそのたびに大きくなった。「大おお鍋なべは灼しゃく熱ねつの恋に溢あふれ」のかなり賑にぎやかなジャズの音に隠かくれて、フレッドとジョージは、ジニーと爆発スナップのゲームを始めた。ロンは何かヒントになるようなものはないかと、ビルとフラーにちらちら目を走らせていた。一方いっぽう、以前より痩やせてみすぼらしい態なりのリーマス・ルーピンは、暖炉だんろのそばに座って、セレスティナの声など聞こえないかのように、じっと炎を見つめていた。
♪ああ、わたしの大鍋を混ぜてちょうだい
ちゃんと混ぜてちょうだいね
煮にえたぎる愛は強きょう烈れつよ
今夜はあなたを熱くするわ
「十八歳のときに、私たちこの曲で踊おどったの!」
編あみ物で目を拭ぬぐいながら、ウィーズリーおばさんが言った。
「あなた、憶おぼえてらっしゃる?」
「ムフニャ?」みかんの皮を剥むきながら、こっくりこっくりしていたおじさんが言った。
「ああ、そうだね……すばらしい曲だ……」
おじさんは気を取り直して背筋せすじを伸ばし、隣となりに座っていたハリーに顔を向けた。