二人は長いこと火花を散らして見つめ合った。やがてスクリムジョールが、温あたたかさの仮面をかなぐり捨てて言った。
「そうか。君はむしろ――君の英雄えいゆうダンブルドアと同じに――魔法省から分離ぶんりするほうを選ぶわけだな?」
「僕は利用されたくない」ハリーが言った。
「魔法省に利用されるのは、君の義ぎ務むだという者もいるだろう!」
「ああ、監獄かんごくにぶち込む前に、本当に死し喰くい人びとなのかどうかを調べるのが、あなたの義務だという人もいるかもしれない」
ハリーはしだいに怒りが募つのってきた。
「あなたは、バーティ・クラウチと同じことをやっている。あなたたちは、いつもやり方を間違える。そういう人種なんだ。違いますか? 目と鼻はなの先で人が殺されていても、ファッジみたいにすべてがうまくいっているふりをするかと思えば、こんどはあなたみたいに、お門違かどちがいの人間を牢ろうに放り込んで、『選ばれし者』が自分のために働いているように見せかけようとする!」
「それでは、君は『選ばれし者』ではないのか?」
「どっちにしろ大した問題ではないと、あなた自身が言ったでしょう?」
ハリーは皮肉に笑った。
「どっちにしろ、あなたにとっては問題じゃないんだ」
「失言しつげんだった」スクリムジョールが急いで言った。「まずい言い方だった――」
「いいえ、正直な言い方でした」ハリーが言った。「あなたが僕に言ったことで、それだけが正直な言葉だった。僕が死のうが生きようが、あなたは気にしない。ただ、あなたは、ヴォルデモートとの戦いに勝っている、という印いん象しょうをみんなに与えるために、僕が手伝うかどうかだけを気にしている。大臣、僕は忘れちゃいない……」
ハリーは右手の拳こぶしを挙げた。そこに、冷たい手の甲こうに白々と光る傷きず痕あとは、ドローレス・アンブリッジが無理やりハリーに、ハリー自身の肉に刻きざませた文字だった。
「僕は嘘うそをついてはいけない」
「ヴォルデモートの復活ふっかつを、僕がみんなに教えようとしていたときに、あなたたちが僕を護まもりに駆かけつけてくれたという記憶はありません。魔法省は去年、こんなに熱心に僕にすり寄ってこなかった」
二人は黙だまって立ち尽くしていた。足下あしもとの地面と同じくらい冷たい沈ちん黙もくだった。庭にわ小こ人びとはようやくミミズを引っぱり出し、石楠花しゃくなげの茂みのいちばん下の枝に寄りかかって、うれしそうにしゃぶり出した。
「ダンブルドアは何を企たくらんでいる?」
スクリムジョールがぶっきらぼうに言った。
「ホグワーツを留守にして、どこに出かけているのだ?」
「知りません」ハリーが言った。
「知っていても私には言わないだろうな」スクリムジョールが言った。
「違うかね?」
「ええ、言わないでしょうね」ハリーが言った。
「さて、それなら、ほかの手立てで探ってみるしかないということだ」
「やってみたらいいでしょう」ハリーは冷淡れいたんに言った。
「ただ、あなたはファッジより賢かしこそうだから、ファッジの過あやまちから学んだはずでしょう。ファッジはホグワーツに干かん渉しょうしようとした。お気づきでしょうが、ファッジはもう大臣じゃない。でもダンブルドアはまだ校長のままです。ダンブルドアには手出しをしないほうがいいですよ」
長い沈ちん黙もくが流れた。
「なるほど、ダンブルドアが君を上手く仕込んだということが、はっきりわかった」
細縁ほそぶちメガネの奥で、スクリムジョールの目は冷たく険悪けんあくだった。
「骨の髄ずいまでダンブルドアに忠ちゅう実じつだな、ポッター、え?」
「ええ、そのとおりです」
ハリーが言った。
「はっきりしてよかった」
そしてハリーは魔法大臣に背を向け、家に向かって大股おおまたに歩き出した。