「姿現わし」への期待で興こう奮ふんしていたのは、ロンだけではなかった。その日は一日中、「姿現わし」の練習の話でもちきりだった。意のままに消えたり現れたりできる能力は、とても重要視されていた。
「僕たちもできるようになったら、かっこいいなあ。こんなふうに――」
シェーマスが指をパチンと鳴らして「姿くらまし」の格好かっこうをした。
「従兄いとこのファーガスのやつ、僕を苛立いらだたせるためにこれをやるんだ。いまに見てろ。やり返してやるから……あいつには、もう一いっ瞬しゅんたりとも平和なときはない……」
幸福な想像で我を忘れ、シェーマスは杖つえの振り方に少し熱を入れすぎた。その日の呪じゅ文もん学がくは、清きよらかな水の噴水ふんすいを創つくり出すのが課題かだいだったが、シェーマスは散水さんすいホースのように水を噴ふき出させ、天井に撥はね返った水がフリットウィック先生を弾はじき飛ばしてしまい、先生はうつ伏ぶせにベタッと倒れた。
フリットウィック先生は濡ぬれた服を杖つえで乾かわかし、シェーマスに「僕は魔法使いです。棒ぼうを振ふり回す猿ではありません」と何度も書く、書き取り罰則ばっそくを与えた。ややばつが悪そうなシェーマスに向かって、ロンが言った。
「ハリーはもう『姿すがた現あらわし』したことがあるんだ。ダン――エーッと――誰だれかと一いっ緒しょだったけどね。『付つき添そい姿現わし』ってやつさ」
「ヒョー!」シェーマスは驚いたように声を漏もらした。シェーマス、ディーン、ネビルの三人がハリーに顔を近づけ、「姿現わし」はどんな感じだったかを聞こうとした。それからあとのハリーは、「姿現わし」の感覚を話してくれとせがむ六年生たちに、一日中取り囲まれてしまった。どんなに気持が悪かったかを話してやっても、みんな怯ひるむどころかかえってすごいと感激かんげきしたらしく、八時十分前になっても、ハリーはまだ細こまかい質問に答えている状じょう態たいだった。ハリーはしかたなく、図書室に本を返さなければならないと嘘うそをつき、ダンブルドアの授じゅ業ぎょうに間に合うようにその場を逃れた。
ダンブルドアの校長室にはランプが灯ともり、歴代校長の肖しょう像ぞう画がは額がくの中で軽いいびきを立てていた。今回も「憂うれいの篩ふるい」が机の上で待っていた。ダンブルドアはその両りょう端たんに手をかけていたが、右手は相変わらず焼け焦こげたように黒かった。まったく癒いえた様子がない。いったいどうしてそんなに異常な傷を負ったのだろうと、ハリーはこれで百回ぐらい同じことを考えたが、質問はしなかった。ダンブルドアがそのうちハリーに話すと約束したのだし、いずれにせよ別に話したい問題があった。しかし、ハリーがスネイプとマルフォイのことを一言も言わないうちに、ダンブルドアが口を開いた。
「クリスマスに、魔法大臣と会ったそうじゃの?」
「はい」ハリーが答えた。「大臣は僕のことが不満でした」
「そうじゃろう」ダンブルドアがため息をついた。
「わしのことも不満なのじゃ。しかし、ハリー、我々は苦悩くのうの底に沈むことなく、抗あらがい続けねばならぬのう」
ハリーはニヤッと笑った。
「大臣は、僕が魔法界に対して、魔法省はとてもよくやっていると言ってほしかったんです」
ダンブルドアは微笑ほほえんだ。
「クリスマスに、魔法大臣と会ったそうじゃの?」
「はい」ハリーが答えた。「大臣は僕のことが不満でした」
「そうじゃろう」ダンブルドアがため息をついた。
「わしのことも不満なのじゃ。しかし、ハリー、我々は苦悩くのうの底に沈むことなく、抗あらがい続けねばならぬのう」
ハリーはニヤッと笑った。
「大臣は、僕が魔法界に対して、魔法省はとてもよくやっていると言ってほしかったんです」
ダンブルドアは微笑ほほえんだ。