「もともと、それはファッジの考えじゃったのう。大臣職しょくにあった最後のころじゃが、大臣の地位にしがみつこうと必死だったファッジは、きみとの会合を求めた。きみがファッジを支し援えんすることを望んでのことじゃ――」
「去年あんな仕打ちをしたファッジが?」ハリーが憤慨ふんがいした。
「アンブリッジのことがあったのに?」
「わしはコーネリウスに、その可能性はないと言ったのじゃ。しかし、ファッジが大臣職しょくを離れても、その考えは生きていたわけじゃ。スクリムジョールは、大臣に任命にんめいされてから数時間も経たないうちにわしに会い、きみと会う手はずを整えるよう強く要求した――」
「それで、先生は大臣と議論ぎろんしたんだ!」ハリーは思わず口走った。
「『日刊にっかん予よ言げん者しゃ新しん聞ぶん』にそう書いてありました」
「『日刊予言者』も、たしかに、ときには真実を報道ほうどうすることがある」
ダンブルドアが言った。
「まぐれだとしてもじゃ。いかにも、議論したのはそのことじゃ。なるほど、どうやらルーファスは、ついにきみを追い詰める手段を見つけたらしいのう」
「大臣は僕のことを非難ひなんしました。『骨の髄ずいまでダンブルドアに忠ちゅう実じつだ』って」
「無ぶ礼れい千せん万ばんじゃ」
「僕はそのとおりだって言ってやりました」
ダンブルドアは何か言いかけて、口をつぐんだ。ハリーの背後で、不ふ死し鳥ちょうのフォークスが低く鳴き、優やさしい調しらべを奏かなでた。ダンブルドアのきらきらしたブルーの瞳ひとみが、ふと涙なみだに曇くもるのを見たような気がして、ハリーはどうしていいのかわからなくなり、慌あわてて膝ひざに目を落とした。しかし、ダンブルドアが再び口を開いたとき、その声はしっかりしていた。
「よう言うてくれた、ハリー」
「スクリムジョールは、先生がホグワーツにいらっしゃらないとき、どこに出かけているのかを知りたがっていました」
ハリーは自分の膝をじっと見つめたまま言った。
「そうじゃ、ルーファスはそのことになるとお節介せっかいでのう」
ダンブルドアの声がこんどは愉快ゆかいそうだったので、ハリーはもう顔を上げても大丈夫だと思った。
「わしを尾行びこうしようとまでした。まったく笑止しょうしなことじゃ。ドーリッシュに尾行させてのう。心ないことよ。わしはすでに一度ドーリッシュに呪のろいをかけておるのに、まことに遺憾いかんながら、二度もかけることになってしもうた」
「それじゃ、先生がどこに出かけられるのか、あの人たちはまだ知らないんですね?」
自分にとっても興味のあることだったので、もっと知りたくて、ハリーが質問した。しかし、ダンブルドアは半月メガネの上から微笑ほほえんだだけだった。
「あの者たちは知らぬ。それに、きみが知るにもまだ時ときが熟じゅくしておらぬ。さて、先に進めようかの。ほかに何もなければ――?」
「先生、実は」ハリーが切り出した。「マルフォイとスネイプのことで」
「スネイプ先生じゃ、ハリー」
「はい、先生。スラグホーン先生のパーティで、僕、二人の会話を聞いてしまって……あの、実は僕、二人のあとを追つけたんです……」