ダンブルドアは、ハリーの話を無表情で聞いていた。話し終わったときもしばらく無言だったが、やがてダンブルドアが言った。
「ハリー、話してくれたことは感謝かんしゃする。しかし、そのことは放念ほうねんするがよい。大したことではない」
「大したことではない?」ハリーは信じられなくて、聞き返した。
「先生、おわかりになったのでしょうか――?」
「いかにも、ハリー、わしは幸いにして優ゆう秀しゅうなる頭脳ずのうに恵めぐまれておるので、きみが言ったことはすべて理解した」ダンブルドアは少しきつい口調で言った。
「きみ以上によく理解した可能性があると考えてみてもよかろう。もう一度言うが、きみがわしに打ち明けてくれたことはうれしい。ただ、重かさねて言うが、その中にわしの心を乱すようなことは、何一つない」
ハリーはじりじりしながら黙だまりこくって、ダンブルドアを睨にらんでいた。いったいどうなっているんだ? マルフォイの企たくらみを聞き出せと、ダンブルドアがスネイプに命じた、ということなのだろうか? それなら、ハリーが話したことは全部、すでにスネイプから聞いているのだろうか? それとも、いま聞いたことを内心では心配しているのに、そうでないふりをしているのだろうか?
「それでは、先生」
ハリーは、礼儀れいぎ正しく、冷静れいせいな声を出そうとした。
「先生はいまでも絶対に信用して――」
「その問いには、寛容かんようにもすでに答えておる」
ダンブルドアが言った。しかしその声には、もはやあまり寛容さがなかった。
「わしの答えは変わらぬ」
「変えるべきではなかろう」皮肉な声がした。
フィニアス・ナイジェラスがどうやら狸たぬき寝ね入いりをしていたらしい。ダンブルドアは無視した。
「それではハリー、いよいよ先に進めねばなるまい。今夜はもっと重要な話がある」
ハリーは反はん抗こう的てきになって座り続けた。話題を変えるのを拒否きょひしたらどうなるだろう? マルフォイを責せめる議論ぎろんをあくまでも続けようとしたらどうだろう? ハリーの心を読んだかのように、ダンブルドアが頭を振った。
「ああ、ハリー、こういうことはよくあるものじゃ。仲のよい友人の間でさえ! 両者ともに、相手の言い分より自分の言うべきことのほうが、ずっと重要だという思い込みじゃ!」
「先生の言い分が重要じゃないなんて、僕、考えていません」ハリーは頑かたくなに言った。
「さよう、きみの言うとおり、わしのは重要なことなのじゃから」
ダンブルドアはきびきびと言った。
「今夜はさらに二つの記憶を見せることにしよう。どちらも非常に苦労して手に入れたものじゃが、二つ目のは、わしが集めた中でもいちばん重要なものじゃ」