ハリーは何も言わなかった。自分の打ち明け話が受けた仕打ちに、まだ腹が立っていた。しかし、それ以上議論ぎろんしても、どうにかなるとは思えなかった。
「されば――」ダンブルドアが凛りんとした声で言った。
「今夜の授じゅ業ぎょうでは、トム・リドルの物語を続ける。前回は、トム・リドルがホグワーツで過ごす日々の入口のところで途と切ぎれておった。憶おぼえておろうが、自分が魔法使いだと聞かされたトムは興こう奮ふんした。ダイアゴン横よこ丁ちょうにわしが付つき添そうことをトムは拒否きょひし、そしてわしは、入学後は盗みを続けてはならぬと警告けいこくした」
「さて、新学期が始まり、トム・リドルがやって来た。古着ふるぎを着た、おとなしい少年は、ほかの新入生とともに組分けの列に並んだ。組分け帽子ぼうしは、リドルの頭に触ふれるや否いなや、スリザリンに入れた」
話し続けながら、ダンブルドアは黒くなった手で頭上の棚たなを指差した。そこには、古こ色しょく蒼そう然ぜんとした組分け帽子が、じっと動かずに納まっていた。
「その寮りょうの、かの有名な創そう始し者しゃが蛇へびと会話ができたということを、リドルがどの時点で知ったのかはわからぬ――おそらくは最初の晩ばんじゃろう。それを知ることで、リドルは興奮し、いやが上にも自惚うぬぼれが強くなった」
「しかしながら、談だん話わ室しつでは蛇語へびごを振りかざし、スリザリン生を脅おどしたり感心させたりしていたにせよ、教きょう職しょく員いんはそのようなことにはまったく気づかなんだ。傍目はためには、リドルは何らの傲ごう慢まんさも攻こう撃げき性せいも見せなんだ。稀け有うな才能と優すぐれた容貌ようぼうの孤こ児じとして、リドルはほとんど入学のその時点から、自然に教職員の注目と同情を集めた。リドルは、礼儀れいぎ正しく物静かで、知識に飢うえた生徒のように見えた。ほとんど誰だれもが、リドルには非常によい印いん象しょうを持っておった」
「孤こ児じ院いんで先生がリドルに会ったときの様子を、ほかの先生方には話して聞かせなかったのですか?」ハリーが聞いた。
「話しておらぬ。リドルは後悔こうかいする素そ振ぶりをまったく見せはせなんだが、以前の態度を反省し、新しくやり直す決心をしている可能性があったわけじゃ。わしは、リドルに機会を与えるほうを選んだのじゃ」
ハリーが口を開きかけると、ダンブルドアは言葉を切り、問いかけるようにハリーを見た。ここでもまた、ダンブルドアは、不利な証しょう拠こがどれほどあろうと、信頼しんらいに値あたいしない者を信頼している。ダンブルドアはそういう人だ! しかしハリーは、ふとあることを思い出した……。
「でも先生は、完全にリドルを信用してはいなかったのですね? あいつが僕にそう言いました……あの日にっ記き帳ちょうから出てきたリドルが、『ダンブルドアだけは、ほかの先生方と違って、僕に気を許してはいないようだった』って」
「リドルが信用できると、手放てばなしでそう考えたわけではない、とだけ言うておこう」
ダンブルドアが言った。
「すでに言うたように、わしはあの者をしっかり見張ろうと決めておった。そしてその決意どおりにしたのじゃ。最初のころは、観察してもそれほど多くのことがわかったわけではない。リドルはわしを非常に警けい戒かいしておった。自分が何者なのかを知って興こう奮ふんし、わしに少し多くを語りすぎたと思ったに違いない。リドルは慎しん重ちょうになり、あれほど多くを暴露ばくろすることは二度となかったが、興こう奮ふんのあまりいったん口を滑すべらせたことや、ミセス・コールがわしに打ち明けてくれたことを、リドルが撤回てっかいするわけにはいかなんだ。しかし、リドルは、わしの同どう僚りょうの多くを惹ひきつけはしたものの、決してわしまで魅み了りょうしようとはせぬという、思し慮りょ分ふん別べつを持ち合わせておった」
「でも先生は、完全にリドルを信用してはいなかったのですね? あいつが僕にそう言いました……あの日にっ記き帳ちょうから出てきたリドルが、『ダンブルドアだけは、ほかの先生方と違って、僕に気を許してはいないようだった』って」
「リドルが信用できると、手放てばなしでそう考えたわけではない、とだけ言うておこう」
ダンブルドアが言った。
「すでに言うたように、わしはあの者をしっかり見張ろうと決めておった。そしてその決意どおりにしたのじゃ。最初のころは、観察してもそれほど多くのことがわかったわけではない。リドルはわしを非常に警けい戒かいしておった。自分が何者なのかを知って興こう奮ふんし、わしに少し多くを語りすぎたと思ったに違いない。リドルは慎しん重ちょうになり、あれほど多くを暴露ばくろすることは二度となかったが、興こう奮ふんのあまりいったん口を滑すべらせたことや、ミセス・コールがわしに打ち明けてくれたことを、リドルが撤回てっかいするわけにはいかなんだ。しかし、リドルは、わしの同どう僚りょうの多くを惹ひきつけはしたものの、決してわしまで魅み了りょうしようとはせぬという、思し慮りょ分ふん別べつを持ち合わせておった」