「これだけですか?」ハリーはすぐさま聞いた。
「どうして暗くなったんですか? 何が起こったんですか?」
「モーフィンが、そのあとのことは何も憶おぼえていないからじゃ」
ダンブルドアが、ハリーに椅い子すを示しながら言った。
「次の朝、モーフィンが目を覚ましたときには、たった一人で床に横たわっていた。マールヴォロの指輪ゆびわが消えておった」
「一方、リトル・ハングルトンの村では、メイドが悲鳴を上げて通りを駆かけ回り、館やかたの客きゃく間まに三人の死体が横たわっていると叫さけんでいた。トム・リドル・シニア、その母親と父親の三人だった」
「マグルの警察は当惑とうわくした。わしが知るかぎりでは、今日に至るまで、リドル一家の死因しいんは判はん明めいしておらぬ。『アバダ ケダブラ』の呪のろいは、通常、何の損そん傷しょうも残さぬからじゃ……例外はわしの目の前に座っておる」
ダンブルドアは、ハリーの傷きず痕あとを見て頷うなずきながら言った。
「しかし、魔法省は、これが魔法使いによる殺人だとすぐに見破った。さらに、リドルの館と反対側の谷向こうに、マグル嫌いの前ぜん科か者ものが住んでおり、その男は、殺された三人のうちの一人を襲おそった廉かどで、すでに一度投獄とうごくされたことがあるとわかっていた」
「そこで、魔法省はモーフィンを訪たずねた。取調とりしらべの必要も、『真実薬ベリタセラム』や『開かい心しん術じゅつ』を使う必要もなかった。即座そくざに自白じはくしたのじゃ。殺人者自身しか知りえぬ細部さいぶの供きょう述じゅつをしてのう。モーフィンは、マグルを殺したことを自慢じまんし、長年にわたってその機会を待っておったと言ったそうじゃ。モーフィンが差し出した杖つえが、リドル一家の殺害さつがいに使われたことは、すぐに証しょう明めいされた。そしてモーフィンは、抗あらがいもせずにアズカバンに引かれていった。父親の指輪がなくなっていたことだけを気にしておった。逮捕たいほした者たちに向かって、『指輪をなくしたから、親父に殺される』と、何度も繰くり返して言ったそうじゃ。『指輪をなくしたから、親父に殺される』と。そして、どうやら死ぬまで、それ以外の言葉は口にせなんだようじゃ。モーフィンはマールヴォロの最後の世せ襲しゅう財ざい産さんをなくしたことを嘆なげきながら、アズカバンで人生を終え、牢獄ろうごくで息いき絶たえた他の哀あわれな魂たましいとともに、監獄かんごくの脇わきに葬ほうむられておるのじゃ」
「それじゃ、ヴォルデモートが、モーフィンの杖つえを盗んで使ったのですね?」
ハリーは姿勢しせいを正して言った。
「そのとおりじゃ」ダンブルドアが言った。「それを示す記憶はない。しかし、何が起こったかについては、かなり確信を持って言えるじゃろう。ヴォルデモートはおじに失神しっしんの呪じゅ文もんをかけて杖を奪うばい、谷を越えて『向こうのでっかい屋敷やしき』に行ったのであろう。そこで魔女の母親を捨てたマグルの男を殺し、ついでにマグルである自分の祖そ父ふ母ぼをも殺した。自分にふさわしくないリドルの家系かけいの最後の人々をこのようにして抹殺まっさつすると同時に、自分を望むことがなかった父親に復ふく讐しゅうした。それからゴーントのあばら家やに戻もどり、複雑ふくざつな魔法でおじに偽にせの記憶を植えつけた後、気を失っているモーフィンのそばに杖を返し、おじがはめていた古い指輪ゆびわをポケットに入れてその場を去った」