五分も経たないうちに、クラス一番の魔法薬作りの評ひょう判ばんがガラガラと崩くずれる音が、ハリーの耳元で聞こえた。スラグホーンは地ち下か牢ろう教室を一回りしながら、期待を込めてハリーの大鍋を覗のぞき込み、いつものように歓声かんせいを上げようとした。ところが、腐くさった卵の臭いに閉口へいこうして、咳せき込みながら慌あわてて首を引っ込めた。ハーマイオニーの得意げな顔といったらなかった。魔法薬の授じゅ業ぎょうで毎回負けていたのが、いやでたまらなかったのだ。いまやハーマイオニーは、摩ま訶か不ふ思し議ぎにも分離ぶんりした毒薬の成分を、クリスタルの薬くすり瓶びん十本に小分けして、静かに注ぎ込んでいた。癪しゃくな光景こうけいから目を逸そらしたい一心いっしんで、ハリーはプリンスの本を覗き込み、躍起やっきになって数ページめくった。
すると、あるではないか。解げ毒どく剤ざいを列挙れっきょした長いリストを横切って、走り書きがあった。
ベゾアール石を喉のどから押し込むだけ
ハリーはしばらくその文字を見つめていた。ずいぶん前に、ベゾアール石のことを聞いたことがあるのでは? スネイプが、最初の魔法薬の授業で口にしたのでは?
「ベゾアール石は山や羊ぎの胃から取り出す石で、たいていの毒薬に対する解毒剤となる」
ゴルパロットの問題に対する答えではなかったし、スネイプがまだ魔法薬の先生だったら、ハリーは絶対そんなことはしなかっただろうが、ここいちばんの瀬せ戸と際ぎわだ。ハリーは急いで材ざい料りょう棚だなに近づき、ユニコーンの角つのや絡からみ合った干ほし薬やく草そうを押しのけて棚の中を引ひっ掻かき回し、いちばん奥にある小さな紙の箱を見つけた。箱の上に「ベゾアール」と書き殴なぐってあった。
ハリーが箱を開けるとほとんど同時に、スラグホーンが、「みんな、あと二分だ!」と声をかけた。箱の中には半ダースほどの萎しなびた茶色い物が入っていて、石というより干涸ひからびた腎臓じんぞうのようだった。ハリーはその一つをつかみ、箱を棚に戻もどして鍋のところまで急いで戻った。
「時間だ……やめ!」
スラグホーンが楽しげに呼ばわった。
「さーて、成果を見せてもらおうか! ブレーズ……何を見せてくれるかな?」
スラグホーンはゆっくりと教室を回り、さまざまな解毒剤を調べて歩いた。課題かだいを完成させた生徒は誰だれもいなかった。ただ、ハーマイオニーは、スラグホーンがやって来るまでに、あと数種類の成分を瓶びんに押し込もうとしていた。ロンは完全に諦あきらめて、自分の大おお鍋なべから立ち昇る腐くさった臭いを吸すい込まないようにしているだけだった。ハリーは少し汗ばんだ手に、ベゾアール石を握りしめてじっと待った。
スラグホーンは、最後にハリーたちのテーブルに来た。アーニーの解げ毒どく剤ざいをフンフンと嗅かぎ、顔をしかめてロンのほうに移動した。ロンの大鍋にも長居ながいはせず、吐き気を催もよおしたようにすばやく後退あとずさった。