「さあ君の番だ、ハリー」スラグホーンが言った。
「何を見せてくれるね?」
ハリーは手を差し出した。手のひらにベゾアール石が載のっていた。
スラグホーンは、まるまる十秒もそれを見つめていた。怒ど鳴なりつけられるかもしれないと、ハリーは一いっ瞬しゅんそう思った。ところがスラグホーンは、のけ反って大笑いした。
「まったく、いい度ど胸きょうだ!」
スラグホーンは、ベゾアール石を高く掲かかげてクラス中に見えるようにしながら太い声を響ひびかせた。
「ああ、母親と同じだ……いや、君に落らく第だい点てんをつけることはできない……ベゾアール石はたしかに、ここにある魔法薬すべての解毒剤として効きく!」
ハーマイオニーは、汗まみれで鼻はなに煤すすをくっつけて、憤懣ふんまんやる方ない顔をしていた。五十二種類もの成分に、ハーマイオニーの髪かみの毛一ひと塊かたまりまで入って半分出来上がった解毒剤が、スラグホーンの背後でゆっくり泡立あわだっていたが、スラグホーンはハリーしか眼がん中ちゅうになかった。
「それで、あなたは自分ひとりでベゾアール石を考えついたのね、ハリー、そうなのね?」
ハーマイオニーが歯軋はぎしりしながら聞いた。
「それこそ、真の魔法薬作りに必要な個性的創そう造ぞう力りょくというものだ!」
ハリーが何も答えないうちに、スラグホーンがうれしそうに言った。
「母親もそうだった。魔法薬作りを直ちょっ感かん的てきに把握はあくする生徒だった。間違いなくこれは、リリーから受け継いだものだ……そう、ハリー、そのとおり、ベゾアール石があれば、もちろんそれで事ことがすむ……ただし、すべてに効くわけではないし、かなり手に入りにくい物だから、解毒剤の調ちょう合ごうの仕方は、知っておく価値がある……」
教室中でただ一人、ハーマイオニーより怒っているように見えたのはマルフォイだった。ローブに猫の反へ吐どのようなものが垂たれこぼれているマルフォイを見て、ハリーは溜りゅう飲いんが下がった。ハリーがまったく作業せずにクラスで一番になったことに、二人のどちらも、怒りをぶちまける間もなく、終しゅう業ぎょうベルが鳴った。
「荷物をまとめて!」スラグホーンが言った。
「それと、生なま意い気き千万せんばんに対して、グリフィンドールにもう十点!」
スラグホーンはクスクス笑いながら、地ち下か牢ろう教室の前にある自分の机によたよたと戻もどった。
ハリーは、カバンを片付かたづけるのにしては長すぎる時間をかけ、ぐずぐずとあとに残っていた。ロンもハーマイオニーも、がんばれと声をかけもせずに教室を出ていった。二人ともかなり不ふ機き嫌げんなようだった。最後に、ハリーとスラグホーンだけが教室に残った。
「ほらほら、ハリー、次の授じゅ業ぎょうに遅れるよ」
スラグホーンが、ドラゴン革がわのブリーフケースの金きんの留とめ金がねをバチンと締しめながら、愛想あいそよく言った。
「先生」
否応いやおうなしに記憶の場面でのヴォルデモートのことを思い出しながら、ハリーが切り出した。
「お伺うかがいしたいことがあるんです」
「それじゃ、遠えん慮りょなく聞きなさい、ハリー、遠慮なく」
「先生、ご存知ぞんじでしょうか……ホークラックスのことですが?」