スラグホーンが凍こおりついた。丸顔が見る見る陥没かんぼつしていくようだった。スラグホーンは唇くちびるを舐なめ、かすれ声で言った。
「何と言ったのかね?」
「先生、ホークラックスのことを、何かご存知でしょうかと伺いました。あの――」
「ダンブルドアの差さし金がねだな」スラグホーンが呟つぶやいた。
スラグホーンの声ががらりと変わった。もはや愛想のよさは吹き飛び、衝しょう撃げきで怯おびえた声だった。震ふるえる指で胸ポケットから、ようやくハンカチを引っぱり出し、額ひたいの汗を拭ぬぐった。
「ダンブルドアが君にあれを見せたのだろう――あの記憶を」スラグホーンが言った。
「え? そうなんだろう?」
「はい」ハリーは、嘘うそをつかないほうがいいと即座そくざに判断した。
「そうだろう。勿論もちろん」
スラグホーンは蒼そう白はくな顔をまだハンカチで拭いながら、低い声で言った。
「勿論……まあ、あの記憶を見たのなら、ハリー、私がいっさい何も知らないことはわかっているだろう――いっさい何も――」
スラグホーンは同じ言葉を繰くり返し強調した。
「ホークラックスのことなど」
スラグホーンは、ドラゴン革のブリーフケースを引っつかみ、ハンカチをポケットに押し込み直し、地ち下か牢ろう教室のドアに向かってとっとと歩き出した。
「先生」ハリーは必死になった。
「僕はただ、あの記憶に少し足りないところがあるのではと――」
「そうかね?」スラグホーンが言った。
「それなら、君が間違っとるんだろう? 間違っとる!」
最後の言葉は怒ど鳴なり声だった。ハリーにそれ以上一言も言わせず、スラグホーンは地下牢教室のドアをバタンと閉めて出ていった。
ロンもハーマイオニーも、ハリーの話す惨憺さんたんたる結果に、さっぱり同情してくれなかった。ハーマイオニーは、きちんと作業もしないで勝利を得たハリーのやり方に、まだ煮にえくり返っていた。ロンは、ハリーが自分にもこっそりベゾアール石を渡してくれなかったことを恨うらんでいた。
「二人そろって同じことをしたら、間抜けじゃないか!」
ハリーは苛立いらだった。
「いいか。僕は、ヴォルデモートのことを聞き出せるように、あいつを懐かい柔じゅうする必要があったんだ。おい、しゃんとしろよ!」
ロンがその名を聞いたとたんビクリとしたので、ハリーはますますいらいらした。
失敗はするし、ロンとハーマイオニーの態度も態度だし、ハリーは向むかっ腹ぱらを立てながら、それから数日、スラグホーンに次はどういう手を打つべきかを考え込んだ。そして、当分の間、スラグホーンに、ハリーがホークラックスのことなど忘れ果てたと思い込ませることにした。再さい攻撃こうげきを仕し掛かける前に、スラグホーンがもう安泰あんたいだと思い込むようになだめるのが、最上の策さくに違いない。