「どうも」トワイクロスが言った。「さて、それでは……」
指し導どう官かんが杖を振ると、たちまち生徒全員の前に、古くさい木の輪っかが現れた。
「『姿すがた現あらわし』で覚えておかなければならない大切なことは、三つの『Dディー』です!」
トワイクロスが言った。
「どこへ、どうしても、どういう意い図とで!」
「第一のステップ。どこへ行きたいか、しっかり思い定めること」
トワイクロスが言った。
「今回は、輪っかの中です。では『どこへ』に集中してください」
みんなが周まわりをちらちら盗み見て、ほかの人も輪っかの中を見つめているかどうかをチェックし、それから急いで言われたとおりにした。ハリーは、輪っかが丸く取り囲んでいる埃ほこりっぽい床を見つめて、ほかのことは何も考えまいとしたが、無理だった。マルフォイがいったい何のために見張りを立てる必要があるのかを考えてしまうからだ。
「第二のステップ」トワイクロスが言った。
「『どうしても』という気持を、目的の空間に集中させる! どうしてもそこに行きたいという決意が、体の隅々すみずみにまで溢あふれるようにする!」
ハリーはこっそりあたりを見回した。ちょっと離れた左のほうで、アーニー・マクミランが自分の輪っかに意識を集中しようとするあまり、顔が紅こう潮ちょうしていた。クアッフル大の卵を産み落とそうと力んでいるかのようだった。ハリーは笑いを噛かみ殺し、慌あわてて自分の輪っかに視線しせんを戻もどした。
「第三のステップ」トワイクロスが声を張り上げた。
「そして、私が号令をかけたそのときに……その場で回転する。無の中に入り込む感覚で、『どういう意い図とで』行くかを慎しん重ちょうに考えながら動く! いち、に、さんの号令に合わせて、では……いち――」
ハリーはあたりを見回した。そんなに急に「姿すがた現あらわし」をしろと言われてもと、驚きょう愕がくした顔が多かった。
「――にー――」
ハリーはもう一度輪っかに意識を集中しようとした。三つの「Dディー」が何だったか、とっくに忘れていた。
「――さん!」
ハリーはその場で回転したが、バランスを失って転びそうになった。ハリーだけではなかった。大おお広ひろ間まはたちまち集団よろけ状じょう態たいになっていた。ネビルは完全に仰向あおむけに引っくり返っていた。一方アーニー・マクミランは、爪先つまさきで回転し、踊おどるように輪の中に飛び込んで、一いっ瞬しゅんぞくぞくしているようだったが、すぐに、自分を見て大笑いしているディーン・トーマスに気づいた。
「かまわん、かまわん」
トワイクロスはそれ以上のことを期待していなかったようだった。
「輪っかを直して、元の位い置ちに戻もどって……」